2024年11月21日(木)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2023年4月26日

山室論文の内容

 まずは論文の要点を紹介する。①鳥取県の宍道湖では1993年を境にワカサギの漁獲量は240トンから22トンに激減した。②ワカサギがえさにする動物プランクトンであるキスイヒゲナガミジンコもまた93年を境にして激減した。

 ③ネオニコは92年11月に最初のネオニコであるイミダクロプリドが発売され、93年春から特に水田で使われている。水田から流れ出す小川の近くの湖水から2018年6月に検出されたネオニコの総量は0.072 マイクログラムパーリットル(μg/l)だった。

 ④時期的な一致からネオニコが宍道湖を汚染し、動物プランクトンが死滅し、えさがなくなったためワカサギがいなくなった可能性がある。ネオニコは世界中で最も多く使用されている殺虫剤なので、同じことがどこでも起こり得る。

ネオニコとワカサギは相関しない

 一見、説得性があるが、データをよく見るといくつもの問題がある。最初の問題は、ネオニコ使用量とワカサギ漁獲量の相関関係である。

 宍道湖のワカサギは1994年以後ほとんどいなくなった。山室論文は宍道湖の現象とネオニコの全国出荷量を関連付けている。両者に相関があるのであれば、全国のワカサギもまた94年に激減するはずである。これが「宍道湖と同じことはどこでも起こりうる」という山室論文の主張である。

 そこで農林水産省の統計を見ると、全国のワカサギの漁獲量は1956年以後ほぼ直線的に減少し、ネオニコの使用が始まった93年以後減少が加速した傾向は全くみられない。漁獲量が多いのは青森県、北海道、秋田県、茨城県の順で、これらの地域ではまだ漁獲が続いている。

 他方、滋賀県では2006年、福島県では11年に漁獲量がゼロになるなど、地域別に見ると減少の速度に差が見られる。もちろんこれらの地域でも1993年以後ネオニコが使用されている。

 このように、全国的にはネオニコの使用とワカサギの減少は無関係であり、宍道湖での時間的な一致は単なる偶然にすぎないことになる。


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