チャットGPTはその名の通りチャット、すなわち会話に大きな意義がある。チャットGPTによる会話がさらに発達し、単なる完璧さを超えて優れた感性を備えるようになると、個性ある人間のような話し相手が出現することになるかもしれない。私たちにとって人間より的確な話し相手が出現するかもしれない。
たとえば学生や生徒の初歩的あるいは基礎的な質問への回答、商品の売り場の店員の役割、役所の窓口の第一次的な応対、孤独な老人の話し相手、困った人の人生相談や占いなど、対人サービスの人手が極端に不足する時代を迎えたわが国では、ビジネスの基礎資料作成を超えた役割が期待される。
チャットGPTが子どもに自ら考える習慣を奪うという指摘があるが、チャットGPTの回答を検証するのは利用者側である。しかも聞き方はいろいろあるので、回答に不満足であれば質問を変えることが必要となる。質問にも、答えの検証にも、使う側の知恵と工夫が求められる。
出典の明示はどのようにするか
YahooやGoogleが出現するまでの長い間、日本の研究者や技術者は、日本科学技術情報センター(JICST)の文献検索システムを頼りにしていた。その時代でも、検索すべきキーワードをどうするかによって検索結果が大きく異なるので検索する側は頭を使ったものである。
文献検索についていうと、現代の研究者の間でも、一定の研究テーマを決めると、まずは先行研究に何があるかを検索し、その先行研究に則ってその先の課題を研究するというのが学術研究の方法だという考え方が確立している。
先行研究に何があって、自分が引用した論文をきちんと記載するのが学者の論文の作法だと強く説く学者もいる。しかしこの原則的な方法にこだわりすぎると、新しい発想が生まれにくいという意見は前からあった。著作権は尊重すべきだが、先行研究を重視する考え方が主流でなくなると研究の世界も変わるかもしれない。
いずれにしろ出典を示さずに他人の論を引用すると「剽窃」と判定され学者や研究者としてのポストを失う仕組みになっている。学生のレポートについても同様である。出典明示ができるかどうかは、チャットGPTの最大の課題である。
出典が明記されないことによる弊害
チャットGPTは日本語で表現されている情報の把握が不十分だと言う人もいる。一方で筆者が知るシステムエンジニアは「便利ですよ」と評価している。言語や分野によって学習が進んでいる面と進んでいない面があることは事実である。
筆者の知人はチャットGPTに「神宮外苑再開発のメリット、デメリットは何ですか」と日本語で聞いてみた。答えはすぐに出た。
残念ながらそれは一般的な再開発のメリット、デメリットだった。神宮外苑再開発について、筆者が2022年9月5日付でWedge ONLINEに書いた「樹木伐採だけではない明治神宮苑再開発が抱える課題」はチャットGPTには把握されていなかった。著作権も侵害されていないわけだ。