2024年4月20日(土)

世界の記述

2023年5月10日

 今回のスーダンに新しい要素があるとすれば、当局側の軍人同士がかつて以上にはっきりと対立している点だ。大別すれば国軍側は非アラブ系住民に、民兵のRSFはアラブ系に支持され、近隣国ではエジプトが前者を、アラブ首長国連邦が後者を暗に支援しているとみられている。

 問題はいずれも強い指導者を欠いている点で、国軍と民兵の対立が長く続けば、他の勢力も割って入り、二者の対立では済まなくなる。現に、紛争の続くダルフール地方では、暴虐を繰り返したRSFの台頭を恐れ、国軍側につく民兵組織を築こうという動きが出ている。

 現時点で、スーダンの内紛が地域の大きなトレンドになり、サブサハラに戦火が広がる恐れはない。

いまだ統治がなされないスーダン

 アフリカの多くの国々では長期独裁が続き、それは排除すべき悪であった。だが、裏を返せば、独裁は強い指導者がいてこそのものだった。コンゴにはモブツ元大統領という独裁者が長く君臨した。悪政ではあったが、少なくとも全土を掌握する統治を目指していた。

 だが、スーダンには良し悪しは別にして、国の顔と言えるような指導者が歴史上現れていない。バシールがその候補だったが、テロリスト支援で悪名を轟かせたため外交的には影が薄く、悪政だけが目立つ人物だった。

 では、なぜ、スーダンに指導者が生まれず、統治が根づかないのか。

 もともとバラバラだった多文化、多宗教、多言語、多民族の地を、長く利得のために介入してきた英国、エジプトの手で「国家」として独立させられる。西アフリカのように小国ならまだしも、実に広大な土地を背負わされ、いきなり放置される。しかも英国やエジプトからのアフターケアもほとんどない。

 そんな土地が国家の体をなし、戦乱のない世界を築くのは、人類史上、誰にもなしえなかった壮大な実験と言えるだろう。

 この国は何をしているんだといった批判を慎み、歴史を熟知した上で、粘り強い説得をし、時間をかけて武器を下ろさせる方へ仕向けるほかないだろう。内戦を経験してきたアフリカ諸国、アラブ諸国を仲介役にまずは停戦を現実のものにする必要がある。

 繰り返すが、スーダンは独立はしたものの一度として、統一国家の統治という経験を積んでいないのだ。

参考文献
‘The Dawn of Everything: A New History of Humanity’(by David Graeber, David Wengrow,2022)
‘Collins History of the World in Twentieth Century’(by J.A.S. Greiville, HarperCollins Publishers Ltd, 1994)
‘A Fighting Retreat: British Empire, 1947-1997’(by Robin Neillands, Hodder & Stoughton Ltd,1996)
‘Rise And Fall Of The British Empire’(by Lawrence James, Abacus, 1995)

   
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