2024年5月19日(日)

#財政危機と闘います

2023年7月12日

 誤解を恐れずに言えば、医療介護などの福祉分野の多くが社会保険で営まれている限り、税や社会保険料という形で政府が吸い上げた他の産業が生み出したお金を右から左に福祉産業に移し替えられているだけで、本質的な富の源泉とはならない。

 にも関わらず、福祉産業にカネもヒトも集めるのは日本経済にとって自滅行為としか言いようがない。

「日本の自滅」を避けるには

 こうした「日本の自滅」を避けるには、2つの道が考えられる。1つは肥大化する一方の社会保障をカネ・ヒト両面から支えるべく、外国人労働者を導入し、併せて少子化対策を講じることで少子化を反転させるのだ。これがまさに政府の方針であり、特定技能2号の適用分野の拡大、「異次元の少子化対策」に象徴される。

 しかし、実はこうした量的な拡大は持続可能ではない。なぜなら、外国人労働者を導入するにしても、ねずみ講型の社会保障制度を維持するためには、今年よりも来年、来年よりも10年後、10年後よりも50年後と未来永劫いまより多くの外国人を受け入れ続けていかなければならないからだ。「異次元の少子化対策」にしても実質的な社会保険料の引き上げなど家計の負担増では出生が増えるわけはない。

 残された道はただ一つ。社会保険の適用範囲を今よりも確実に狭めることで給付を減らし、裏を返せば負担を減らして社会保障をスリム化すること以外ない。

 改革によって社会保険の適用範囲から外れてしまう分野に対しては、民間の保険で対応すればいい。財政も社会保障も市場規律が働かなさすぎる。公的価格の対象から外れることで自由な活動が保証され賃金が上がる分野は多いだろう。

 こうした社会保障のスリム化でカネもヒトも消費するだけの社会保障から本質的な富の源泉である民間に解放されるため、日本の経済成長力の底上げにつながるはずだ。

 このまま全世代型社会保障の構築に突っ走り、その裏側で実質的な増税を繰り返すのでは、日本は社会保障で滅びた歴史上最初の国家となってしまうのではないか。本当にこのまま社会保障を拡大させるのが日本のためになるのか、一度立ち止まって冷静に考える時期に来ているのではないだろうか。

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