他方で米国は、トランプ政権時代に、ベネズエラやキューバに対する制裁に明け暮れ、メキシコを除けばラテンアメリカ外交は不在で、著しく影響力が低下した。バイデン政権において昨年に米州サミットを主催したが、キューバなど非民主国を排除したことから、メキシコなど主要国首脳のボイコットに直面し、ラテンアメリカ外交の復活の機会として効果的に活用したとはいえず、地域の左派政権の台頭もあり依然として影響力は回復していない。
以上のような状況の下、本来ラテンアメリカと歴史的にも関係の深いEUが中国に対抗し役割を果たすことが期待されていた。EUは、ラテンアメリカ諸国首脳をブリュッセルで歓迎し、デジタル分野、教育、医療インフラ、エネルギー、環境などを中心とする対ラテンアメリカ投資パッケージを打ち出して、古い友人たちとの友好関係の復活という演出を意図した。
しかしながら、会議は、ロシアのウクライナ侵攻を非難するEUと、このサミットはウクライナ問題を議論する場ではないとするCELACの間で当初から議論が食い違い、また、EU・メルコスールFTAについてもサミットの場では双方に歩みよる姿勢は示されなかった。
経済面では、EU側は、「グローバル・ゲートウェイ投資アジェンダ」と称するラテンアメリカ投資パッケージを打ち出し、2027年までに135のプロジェクトから成る450億ユーロの投資が行われることを、フォンデアライエンEU委員長が発表した。また、貿易面では、メルコスールとの貿易協定の折衝が遅くとも年内には完了し、メキシコとのFTAの改定が数カ月以内には解決するであろうとも同委員長は述べた。また、EU側の提案で、EU・CELACサミットが2年ごとに開催され、その準備やフォローのために外相レベルの会合が開催されることが合意された。
ひとまず成果はあげたサミット
今回のサミットについてはさらなる分析評価の必要もあろうが、とりあえずは、ウクライナをめぐる立場の違いを何とか乗り越え、中国に対抗する450億ユーロの投資アジェンダも打ち上げ、二国間ベースでアルゼンチン、チリ、ホンジュラス、エルサルバドル、エクアドル、ブラジルなどと経済関係強化に関する取り決めに署名が行われるなど、ある程度ラテンアメリカ側の期待に応えたと言えるのではないか。少なくとも今後のEUとラテンアメリカとの関係強化の良いスタートとなったと評価される。メルコスールとの貿易協定については、このサミットで進展は見られなかったが、フォンデアライエン委員長が年内の問題解決をコミットしたことは意味があろう。
今回EUのラテンアメリカ諸国との対話の場が復活したことで、ラテンアメリカと日本を含む中国以外のアジアの対話の場がないことに物足りなさを感じる。日本としては二国間関係上の現実の成果を上げることで、より強いシグナルを送ることが現実的のように思える。具体的には、わが国としてもメルコスールとの経済連携協定の可能性や環太平洋経済連携協定(TPP)へのラテンアメリカ諸国の優先的加盟承認、個々の二国間関係の強化といった方策を手掛かりとして検討すべきではなかろうか。