2024年7月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年8月17日

 英エコノミスト誌7月22日号の社説‘What the China-India detente means for the West’は、インドと中国は領土問題を抱えているが、最近関係は改善に向かっており、両国が領土問題を棚上げにして緊張緩和が続けば、世界の地政学的情勢は大きく変わる可能性がある、と論じている。要旨は次の通り。

(studiocasper/gettyimages)

 インドは中国への対抗勢力になってくれるかもしれないという期待が米外交の土台にはある。これはインドの将来の国力と地政学的位置への賭けだ。2000年のクリントン大統領のデリー訪問以来、歴代の米大統領はこの姿勢を強化してきた。

 しかし、最近の中印関係の著しい改善を見ると、インドは米国が思うようなパートナーとはならないかもしれない。

 中印関係は2020年の国境紛争を機に大きく悪化した。米印防衛協力の拡大が進み、インドは7万の兵士をパキスタンとの国境から中国との国境に移した。インドは、中印二国間の貿易や投資の制限など、中国に対する経済的措置もとった。しかし、経済的冷却の期間は短かった。2021年、中印間の貿易は新型コロナウイルスのパンデミックからの回復もあって43%も拡大し、昨年も8.6%増えた。

 中印は国境争いの鎮静化を望んでいるように見える。双方の軍司令官による18回の協議を経て、両国は5つの紛争地点から兵を引き揚げ、両国共に巡回しない「緩衝地帯」を設置、これにより安全ではない地点は2個所のみとなった。

 中印間の緊張緩和の継続は中印双方にとり利益になる。経済的な対中依存の軽減に向けたインドの金融努力は、その実現の難しさが明らかとなった。モディの最優先課題であるインフラ整備と製造業は特に中国からのインプットに依存しており、有力な輸出産業である製薬業も有効成分を中国から輸入している。

 中国にとってインドを味方につけることが利益になるのは明確だ。国境を巡る中国の敵意は米印の安全保障関係を強化しただけだった。加えて、中国経済の減速で、中国の輸出業者にとってのインドの膨大な国内市場の重要性はさらに増した。

 平和的で有意義な中印関係は両国の国民と世界に大変な利益をもたらし得る。しかし、緊密な米印関係を追及すべき理由が弱まるわけではない。インドは対中関係の改善に関わらず、今後も引き続き自国を中国から守るべく支援を欲するだろう。こうした関係は安全保障を超えて様々な利益を生む。ただ、米国の強硬な対中姿勢が、インドは必要な場合には米国を助けてくれるという前提によって強化されているのであれば、そうした前提はやめるべきだ。

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 この社説の論旨は、正鵠を得ている。そういう多面的な中印関係を念頭に置いて、それぞれの国の対インド政策が構築されるべきは当然であろう。ただし、中印関係の改善の可能性を強調しすぎているきらいはある。


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