この論説は、大枠で賛成できる内容である。
米中間の対決を新冷戦というかどうかは言葉の問題であり、どういってもよいが、米ソ冷戦と最近の米中対立は、同じ面があるが違う面もある。
例えば、ライスなどはケナンの「長い電報」に言及しているが、ここで表明された考えが米国の対ソ冷戦時代の基本政策、「封じ込め戦略」につながったが、いま中国を「封じ込める」という戦略は、中国が世界中で経済面などで持っている影響力に鑑み、とても採用できる戦略ではない。
ライスなどは過去の冷戦から学ぶ点があるとしている。同盟をしっかりさせ、同盟国を増やすこと、軍事力の増強で抑止力を向上させること、事故防止などは、そこから学べる点である。が、今の米中対立をどう管理していくかは過去の冷戦の教訓に学ぶ以上に難しい問題ではないかと思われる。
米国で米中経済の「デカップリング(切り離し)」という議論があったが、結局、欧州連合(EU)のフォン・デア・ライエン委員長のいう「デリスキング(リスクの軽減)」の考え方に収斂していったことは、その一つの現れである。中国の軍事力をさらに強めるような半導体関連の機微技術の輸出などはやめるという経済面での安全保障政策はとるべきであろうが、デカップリング は無理であると今は考えられている。
要するに過去の冷戦の教訓は当てはまる場合もあるが、そうでない場合もあるので、新しい状況を緻密に分析して、対中政策を展開していくべきであるということであろう。
同盟国数の差は歴然
この米中対立を中心にする中国やその仲間と自由民主主義国との対立の行方については、ライスなどは自由世界にとっての勝利になると言っているが、それはそうだろう。
米国の同盟国と中国の同盟国の数を比較しただけで、勝ち負けははっきりしている。中印関係は国境紛争で緊張関係にあるほか、中国と関係がいい国は北朝鮮、ミャンマー、カンボジアくらいである。中国とASEAN諸国の関係は、この間の南シナ海での9段線をあたかも領海線のごとく表示した中国の新しい地図の発表で悪くなっている。ロシアは、中国にとって重要な準同盟国であるが、ウクライナ戦争を引き起こし、中国の重荷になっているきらいがある。
中国はこれから国内で少子高齢化問題を抱え、不動産バブルの崩壊を経て、デフレに陥る可能性が大である。若年者の失業率も20%を超え、深刻化している。中国が軍事的にどんどん台頭する危険と混乱に陥る危険は同じくらいあると考えている。