「親が頑張らないでどうするんだ」
既存チームの保護者からすれば、わが子が野球をやりたいなら、保護者が「労力」を対価として提供することは当然で、できないということへの違和感が拭えない。
こうした考えはこの男性だけではない。愛知県で小学3年の長男が少年野球チームに所属する30代の会社員男性も「お子さんが入会を希望しても、保護者が『最初からできません』というのであれば、やはり『やめてください』という思いになりますね。ほかの保護者もボランティアでみなさんやっている。それができないなら、例えば野球スクールのような塾に通わせるしかないのではないでしょうか」
息子が所属するチームでコーチを引き受ける千葉県在住の男性はコーチングに関する勉強を怠らない。保護者の負担を感じるかについては「『ない』と言いたいですね。子どもが頑張っているのに、親が頑張らないでどうするんだと言いたい。もちろん、負担に感じる人がいるのは理解できます。そのような保護者からしたら、私はうるさい存在になるでしょうね。だけど、小学生の子どもの活動ですから、親のフォローは必要だと思いますけどね」と厳しい意見だ。
少年野球に熱心に関わる保護者は、反発力があって5万円ほどする特殊なバットや、有名選手モデルのグローブ、さまざまなトレーニング器具なども子どものために購入する。「野球はお金がかかるもの」と割り切っていて、子どもと一緒にスポーツ用品店に足を運び、子どもが買った道具で結果を出すことに喜びを感じる。それは受験勉強のための塾にお金がかかるのと感覚は同じだろう。
少年野球が敬遠される3要素である「過度な保護者負担」、「金銭的事情」に加えた最後の一つ、「怒号、怒声が飛ぶ指導スタイル」に対しても、冒頭の都内在住の男性は、寛容な姿勢を見せる。
「もちろん、一生懸命やったときのエラーには怒らないでほしいですよ。だけど、子どもとはいえ、明らかに怠慢なプレーをしたら、指導者がきちんと怒らないと伝わらないと思います。低学年のときは野球を好きになってもらうことが大事ですが、一定のレベルになれば、怠慢なプレーには、怒号や怒声があってもやむを得ないと思いますよ。そのまま怒られずにそういう大人になってしまうというほうが嫌ですね」
地域でチームを選べない少年野球
各家庭で〝野球熱〟も〝向き合い方〟も千差万別な少年野球だが、それぞれの家庭にあったチームに入れば、こうした問題は軽減される。それができないのは、少年野球は原則的には、居住地域に存続するチームに入ることが前提となっているからだ。
たとえば、中学なら硬式のクラブチームと学校のクラブ活動で、レベルは違う。子どもたちも自分のレベル、意識に応じてチームを選べる。高校も甲子園を目指す生徒と、いわゆる弱小と呼ばれるチームでは野球に対する目的が違う。
しかし、少年野球は地域に根ざすことが多く、チームの方針に合わないからや、より高いレベルを求めてといった理由で移籍するケースは珍しい。このため、同じチーム内でも、保護者も熱心で自主トレや練習日以外にスクールに通う児童もいれば、保護者が週末と祝日の練習でも関与することが難しい家庭もある。