マーケティングが「いつ、誰が、どの商品・サービスを求めているか」の問いに対する答えだとすれば、銀行は性別、年齢、所得の3大情報を精度高く把握できる。まずは預金口座から性別、年齢、居住地がわかる。入金情報から勤務先、月給やボーナスの額と支給日がわかる。勤務先は会社が銀行に提出する総合振込依頼書からも読み取れる。居住地で口座名寄せすれば同居状況ひいては家族構成をうかがうことができる。
これら情報を組み合わせることで当人のライフスタイルが読み取れる。例えば女性であればビジネスパーソンか専業主婦か。1人暮らしか夫婦2人か核家族か、等々の属性は消費行動に反映する。ライフスタイルを掴むことが精度高いマーケティングの役に立つ。
出金情報からもマーケティングの手掛かりがいろいろ見つかる。例えば、毎月引き落とされる家賃がわかる。振込データの受取人名から通学している学校や習い事を推測できる。これに、クレジットカードから得られる購買履歴、スマホ等から得られる移動履歴などをかけ合わせれば、相当な精度のマーケティング情報が得られよう。
マーケティング情報だけではない。真の強みは信用情報だ。新規にアプローチするにあたってリスクはないかの情報だ。信用情報を把握するのに振替不能一覧表が役に立つ。電気、ガス、水道、電話などの公共料金、クレジットカード、消費者金融、家賃や習い事などすべての口座振替の引き落とし状況が過去にさかのぼって一覧できる表だ。
残高不足による振替不能が多いケースは言うに及ばず、振替登録数が多いのに毎月決まった入金がなかったり、振替不能の数日後に現金自動預け払い機(ATM)入金することが多かったりするケースで黄信号が灯る。そもそも収入と支出のバランスを欠いているかもしれないし、資金繰り管理が苦手なタイプかもしれない。
信用情報を商材化するリスク
AIブームを追い風にデータ利活用の期待が高まっている。口座と入出金データを持っているだけでも十分な強みだが、加工、分析能力を高めることで個別テーマに応えるマーケティング支援にも使えるようになる。購買履歴や位置情報など他のデータを組み合わせれば精度はさらに高くなる。
一方で、マーケティングとりわけ信用情報を商材化することにリスクはないだろうか。機微情報ではないにせよ配慮が必要なものもあり、そうした懸念に対応しながら銀行は新たな活用法を追求していく必要がある。住宅ローンに伴う団体信用生命保険の審査情報や、交通反則金の納付情報などが頭に浮かぶ。
現状、預金口座や入出金データは全行員がアクセスできる。その上で、ローン審査やセールスに利活用されている。振替不能一覧表はローン審査の役に立つし、退職金や生命保険金など大口の入金は営業のネタとなる。この点、セールスどころかアクセスさえも厳しく管理されている住民基本台帳や電話・メールの通信履歴とは大きく異なる。
利便性と引き換えにはなるが、銀行取引を分散すれば把握されにくくなる。問題は、銀行再編の影響で地元銀行が実質的に1つしかなくなってしまった地域だ。自動引き落とし口座、送金受入口座に指定する銀行が当の1行しかないケースもありえる。あえてインターネット専業銀行や県外行をメイン口座にすることもできるが実情はいろいろ煩わしい。
こうした地域では、地元に残った1行の性格が公共機関に限りなく近くなる。大都市ならまだしも、地元に統合行1行しかない地域においてマーケティング目的の口座情報の利活用には注意と配慮が求められる。公共機関に準じたアクセス制限、データ利活用基準の設定も今後の検討課題に上がることだろう。