また、児童虐待対応の専門書では、家で食事が提供されないことや、夜間に保護者が不在となることを「子どもの放置」として、小学生のネグレクトの典型例として紹介している(図表1)。
さらに同書では、児童虐待の死亡検証事例のうちネグレクトは対象事例の34.1%を占めることを指摘している(p.31)。放置による死亡に至る例は乳幼児が大半であり、小学生では多くはない。
しかし、だからといって、「問題なし」とすることはできないだろう。
放置が続けばゴミ屋敷などの衛生状態にも問題が発生し、子どもは不登校や非行などの症状が現れる。兄弟がいればその世話を子どもが担わざるを得ないヤングケアラーの問題も生じる。
将来にわたって悪影響を及ぼす可能性がある虐待として、ネグレクトは公的責任において対応が必要な事案なのである。
改めて自民党県議団の改正案をみる
「いやいや夜間放置が虐待なのはわかっている。『留守番禁止条例』は、子どもだけで公園で遊ばせたり、ちょっとの間だけ留守番させたりするのまで禁止している。これはやりすぎじゃないか」、こうした反論が聞こえてきそうである。
こうした批判の多くは、改正案そのものではなく、提案した自民党県議団の議員が説明した内容に対してであることを確認しておきたい。
それでは条例本文といえば、具体的記載はシンプルに4点だけである。
(1)9歳までの子どもを残したまま外出すること、その他の放置はしてはならない。
(2)12歳までは上記をなるべくしない。
(3)県と市町村は上記の問題が生じないよう対策を取る。
(4)上記の例を見つけたら、「児童虐待のおそれがある」として児童相談所などに連絡してほしい。
出所:議第25号議案「埼玉県虐待禁止条例の一部を改正する条例」をもとに筆者作成
これを口語で説明すると次のような形になるだろうか。
「小学校3年生までは1人で留守番をさせることはやめましょう。それ以上の年齢でも小学生の間は、大人の目が届くように心がけましょう。そのほか、子どもたちだけで過ごさせていると虐待(ネグレクト)と判断される場合があります。気をつけましょう」
さらに、条例では県や市町村の責務についても言及している。
「学童保育に入れないなど、保護者の方にはさまざまな困難があることは承知しています。県は、市町村と連携して、この問題を解消するために努力していきます。もし、心配な事例があれば、どなたでも構いません。ご相談ください」
いかがだろうか。改正案に関する加熱した報道が与えるイメージに比べると、ずっと穏当な内容であることがわかるだろう。