埼玉県議会の自民党県議団が、子どもの放置に関して、現実とかけ離れた条例改正案(以下、改正案)を議会に提出したとして大きな波紋を呼んだ。子どもだけの外出や留守番を放置による虐待とする内容が、「ひとり親やワンオペ育児の実態をわかっていない」と批判を浴びた形である。
県議会は最終的に取り下げを表明し、ひとまず条例が成立することはない。しかし、メディア報道やSNSから離れて、児童虐待対応の視点からみていくと「本当にトンデモ条例なのか?」という疑問が浮かんでくる。
波紋を呼んだ埼玉県「留守番禁止条例」
「子どもの留守番は放置で児童虐待だ」とする虐待禁止条例の改正案が、埼玉県議会に提出され、6日委員会で可決した。
改正案は、2023年10月4日、埼玉県議会の最大会派、埼玉県議会自由民主党議員団(自民)が議員発案の条例の改正案として提出した。子どもの放置など悲惨な事件が相次いでいることを懸念して作られたものだという。
これに対し、子育て世帯から次々と反対の声が広がった。
相次ぐ批判の声を受けて、10日、改正案を提出した自民党県議団は「県民はもとより全国的に不安と心配の声が広がった」などとして改正案を取り下げた(NHK、2023年10月10日)。
メディア報道やSNS、有識者の声は批判一色である。提案した自民党県議団を袋叩きで擁護する発言はほとんど見当たらない。
しかし、筆者は「全否定するだけでよいのだろうか」とも思う。今回は、メディア報道やSNSからはいったん離れて、児童虐待対応の視点から改正案の解説を試みたい。
小学生の子どもだけの留守番は虐待である
まず、日本における児童虐待の定義から確認していこう。
児童虐待防止法(正式名称:児童虐待の防止に関する法律)では、児童虐待を(1)身体的虐待、(2)性的虐待、(3)ネグレクト、(4)心理的虐待の4つに分けて定義をしている。
さらに、児童虐待への対応指針である「子ども虐待対応の手引き」では、ネグレクトの範囲について次のとおり言及している。
このように考えると、ネグレクトは、生命にかかわり分離が必要な程度の範囲と、直ちには生命の危険はないが将来にわたって悪影響を残すことが想定されるために支援が必要な程度の範囲の二つの基準を考える必要がある。
厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課「子ども虐待の手引き(平成25年8月改正版)」,p.289.
このように、「小学生の子どもだけの夜間の留守番」はネグレクトにあたる。