2024年5月20日(月)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年10月26日

 中国国家移民管理局は10月1日、外国人の72時間、もしくは144時間トランジットに関してビザ免除措置を実施すると発表。日本を含む世界53ヵ国を対象としており、この範囲内であればビザなしで中国に渡航できるようになったが、これは出張や観光をするにはあまりにも短い時間・日数であり、この措置によって中国渡航者が増えることにはつながらないだろう。

 筆者の周囲でも、中国渡航を取りやめたり、躊躇したりする動きが広がっている。今年初め、中国でゼロコロナ政策が事実上、終了したあと、一部の中国ビジネス関係者は「これでようやく中国に出張できる」「3年ぶりだ」と喜び、早速ビザ申請を行ったが、ビザ取得までの手続きの煩雑さや、取得までにかなりの時間がかかることから、「辟易した」「これでは仕事にならない」とこぼしていた。

 実際、現地に赴く際にも、国内にいる同僚たちから「あっちで絶対に捕まらないように」「必ず帰ってこいよ」と笑うに笑えないジョークを言われ、本人たちも「自分は大丈夫ですよ」と答えつつも、「内心ではヒヤヒヤしていた」と話していた。

拘束されるのは反中とは関係ない

 反スパイ法を見ると、あいまいな文言が多く、とくに項目の最後にある「その他のスパイ活動」は具体的な内容が記されていない。そのため、どのような行為をすればその対象となるのかが明らかになっていないのだ。当局による裁量や解釈の仕方によって、いくらでも拘束の口実ができてしまうだけに、中国ビジネスにかかわる多くの日本人ビジネスパーソンにとって不安材料となっている。

 中国駐在員の間では、「こういう業界の、こういうことをしてきた人が逮捕されるのでは……」といった噂や憶測が飛び交っているが、明確なものはない。どのようなことが該当するのかは、中国側にしかわからず、しかも、それが明かされることはないからだ。これは、これまでも日本で語られてきた「中国リスク」といえるだろう。

 とくに、日本人の間で不安が広がっている理由のひとつは、これまでに逮捕された人々の経歴が、いずれも反中的どころか、どちらかといえば親中的であることだ。

 冒頭の今年3月に拘束され、その後逮捕された製薬会社の駐在員は約20年ものあいだ中国ビジネスにかかわるベテランで、医療分野を中心に中国政府の要人とも人脈を持つ人物だった。また、今年4月に出版された『中国拘束2279日 スパイにされた親中派日本人の記録』(毎日新聞出版)の著者である鈴木英司氏も訪中歴が200回を超え、中国についてよく理解し、中国人の友人も多い人物だった。それだけに、「自分は別に反中的な言動をとっていないし、中国政府に睨まれているわけではないので大丈夫だ」とは断言できないのだ。

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