まず、「激動は習近平施政の特徴で不具合ではない」という一節は言い得て妙だ。ポッティンジャーは、習近平は権力掌握以降11年間で政治局員6人、中央委員会委員35人、将軍60人、試算によれば党員約350万人を追放したと言っているが、改めて習近平の反腐敗キャンペーンの規模の大きさを知った。
それを背景に、彼は最新の国防部長(国防相)、外交部長(外相)、ロケット軍司令官等の異動は「党を不安定な状況に置き自分の優越性を高めようとする積極的仕掛けの一環では無いか」と主張するが、これも一理あろう。
次に、「中国経済の減速は、習近平がリスクに一層食指を伸ばすことを意味するかもしれない。未だ多くの点で優位なうちに地政学上の利益を固めておこうということだ」という一節に注目したい。更に彼は、「中国は現在米国は弱いと見ており、その計算違いにより台湾に仕掛けることを防止する唯一の手は、力による抑止だ」と主張しているが、後者の点については、その通りだと思う。
一方、中国経済の減速がリスクテイクに繋がるという点については、そんな余裕はあるのかとも疑問を持つ。リスクテイクの失敗は経済状況を一層悪くするし、共産党の正統性の低下を通じて国民の共産党に対する反発を一層強める結果になるのではないか。だからこそ中国側が計算違いで変な仕掛けをしないように、失敗のリスクを感じさせ続けることが死活的に重要だ。
何を見せて会談するのか
そして、「今はデタントの時ではない。中国は譲歩しか無いと思う程追い詰められていない」という一節は、全くその通りだろう。誤解を避けるためのコミュニケーションの維持は大変に重要だが、問題は、そこで何を話すかだ。会談実現のために何をするか、それが相手にどう見えるかの視点も、ポッティンジャーが言うように重要だろう。
最後に、中国がトランプとバイデンのどちらを選好するかについて、「中国がトランプ第二期政権で一番恐れるのはトランプがウクライナ、NATO、台湾を支援すること。候補者の誰かが、NATO、ウクライナ、台湾に弱い立場を示せば、一層の関税を課せられてもその候補が中国の好みだ」というのは、正に至言だと思った。そして、正にこの点について、トランプ大統領がどのような立場を取るかが予想不可能なことがわれわれの抱える最大の問題である。