李克強前首相の突然の死、その波紋が広がっている。
最高レベルの医療サービスを受けられる中国の国家指導者は総じて長命だ。温家宝元首相は81歳、朱鎔基元首相は95歳でなお健在。心臓発作による、68歳という若さでの死はあまりにも異例だ。この早すぎる死の真相とは?
また、経済低迷で人々の不満が高まるなか、改革の志なかばで潰された李克強前首相の死は人々の怒りを呼び覚ました。胡耀邦元総書記の死が1989年の学生運動と天安門事件につながったことが思い起こされる。このリスクをもっとも熟知しているのは中国共産党だ。
追悼式典などは最小限に抑え、繁華街など人が集まる場所に武装警官を配備し厳戒態勢をしいている。李克強の「長江、黄河が逆流することはない」(改革が逆転することはない)との言葉は検閲され、ソーシャルメディアから削除されている。
だが、14億人すべてを見張ることはできない。監視の穴をついた人民たちによる静かな追悼が広がる。
この波紋はどこまで大きくなるのか。今、中国に大乱の気配が漂う……。
10月27日以降、X(旧称ツイッター)の中国語ユーザーのつぶやきをウォッチしていて目にした噂や憶測をまとめると、こんなところになるだろうか。なにか大変なことが起きているように感じるのだが、中国人の友人に聞いてみると「そんな気配はさっぱり感じない」ときっぱり。ネットとリアルで別世界なのだとか。
これを聞いて思い出した話がある。10年ほど前のことだ。1989年の学生運動のリーダーである王丹氏が東京で講演を行った時、中国人留学生が「ネットを見ていると、明日にも革命が起きそうなのに、中国に帰国すると何も起きていない。これはいったいなんなのでしょうか」と質問していた。
中国はまもなく変わる、中国共産党は失敗している……というネットの期待と現実との乖離をうまく理解できないでいる若者の姿が印象的だった。習近平体制における言論統制の強化に伴い、反体制のネット世論は下火になっていくのだが、それでも大きな事件が起きるたびに〝現実と乖離したネット世論の大騒ぎ〟が再び出現することになる。
もちろんネットの盛り上がり、そのすべてが虚構だというわけではない。昨年、中国で広がった白紙運動は相当の広がりを見せた。