この社説の基本的方向性には同意するが、細かな点を指摘しておきたい。
第一に、中国の台湾に対する圧力は経済面にも及んでいる。本年4月12日、中国商務部は台湾に対し「貿易障壁調査」の開始を発表した。調査対象は、台湾の全ての対中輸入禁止品目(現在2509品目)におよぶ。調査期限は当初は23年10月12日までだったが、なぜか、特殊な状況下では24年1月12日、すなわち台湾総統選挙の前日まで延長可能とされ、そのようになった。
従来の中国による対台経済圧力は、検疫・健康保護等を理由に少数の製品・企業を狙い撃ちにしたものだった。害虫発見によるパイナップルやマンゴー、規制値を超える禁止薬物の検出による高級魚ハタの輸入禁止などだ。しかし、今回は若干様子が異なる。
世界貿易機関(WTO)等の国際ルール等を理由に、台湾側の輸入禁止品目全てを対象に「実害」の存否を調査するという包括的なもので、調査結果に伴う何らかの対応の必要性を自らに課す内容だ。今や中国経済の将来の不透明性が高まっていることと併せて考えると、中台関係の今後に、経済分野を超えた大きな影響をもたらす動きかもしれない。
実際、経済の実態から見ても、台湾からの輸出に占める対中輸出の割合は最盛期の60%弱から今や45%程度に落ち、台湾の対外直接投資の内、中国向けは、過去10年間で約3分の1となり、今や台湾の対米投資の約3分の1に沈む。
総統選の情勢も変化
第二に、来年の台湾総統選挙と11月15日の米中首脳会談のやり取りについて述べる。この社説が言うように、会談において習近平はバイデンに台湾への武器供与を止め与党民進党に有利な形での選挙介入を止めるように警告した。一方、バイデンは習近平が車に乗り込む別れ際に、習に対して台湾選挙への「いかなる」介入も予想していないと応じたようだ。
このバイデンの発言は台湾では、この社説が示唆するより大きな影響があったようだ。すなわち時を同じくして台湾では、11月24日の立候補締め切りを前に馬英九の後ろ盾で、世論調査で2位、3位の国民党侯友宜候補と、台湾民衆党柯文哲候補との間で、一本化を巡る協議が進められており、一旦はまとまったかに見えたが結局破綻し、両者それぞれが立候補を届け出た。これは本年3月以来世論調査でトップを維持している民進党頼清徳候補にとっては朗報だが、仮に彼が当選すれば、民進党政府が3期12年間続くことになり、中国にとっては、難しいかじ取りを迫られる。
ただ、その後、地味だった国民党侯友宜候補のメディア露出が高まり、国民党に近く立候補を見送った無所属の郭台銘候補の支持者が流れたこともあり、侯友宜候補の支持率が上がり、11月21日〜23日の美麗島電子報の世論調査では、民進党頼清徳氏31.4%、国民党侯友宜氏31.1%とその差は0.3%まで近づいた。
まだまだ誰が当選するかを予測するのは早い。中国の何らかの関与も続くだろう。