2024年11月22日(金)

21世紀の安全保障論

2024年1月11日

 しかし、海からの輸送には道路啓開に不可欠の重機や各種の車両、大量の支援物資などを輸送できる強みがある。この強みを生かし、海から輸送された重機が孤立した被災地に至る道路を啓開し、海から輸送された車両が支援物資を運んで被災者に届ける。

 つまり、海からの輸送は、陸側と海側の双方からの道路啓開と支援物資輸送を可能にし、被災地の孤立を倍速で解消する切り札となり得る。今後起こりうる大規模災害に備えて、海からの輸送力を強化する必要性は大きい。

海からの輸送力の強化への二つの課題

 災害時における海からの輸送の課題は、第一に、被災地に漁港などの小規模港湾しかない場合、あるいは津波などで港湾が使用できない場合の対応である。この課題への対策は、小規模港湾や海浜に重機などを輸送できる船舶の保有である。

 第二の課題は、海からの輸送のための船舶を如何にして平素から多数確保するかである。この課題への対策としては、海に面した地方公共団体による輸送用船舶の保有が考えられる。

(1) 輸送用船舶とは

 残念ながら、現在の日本では災害時における海からの輸送力はかなり小さい。今回活躍した海上自衛隊のLCACは海浜への輸送は可能だが、護岸が多い日本の海浜では輸送された重機や車両が海浜から直接道路に出られる場所は意外と少なく、上陸場所が限られる。また、ホバークラフトであるLCACは全長28メートル(m)、全幅14.7mと決して小さくない船体をプロペラの風力で操船するため細かい操船は難しく、小規模港湾内での揚陸が常に可能とは言えない。

 なお、民間の小型フェリーボートは、甲板の強度上、重機を搭載できない場合があり、搭載できた場合でも専用の揚陸設備の無い小規模港湾での揚陸は難しい。もちろん、海浜での揚陸は不可能だ。

 他方、防衛省は2025年3月に海上輸送を担う共同部隊「海上輸送群」を発足させる予定である。同部隊は、将来的に搭載能力2000トン程度の中型級船舶(LSV)2隻、搭載能力数百トン程度の小型級船舶(LCU)4隻、搭載能力60トン程度の機動舟艇4隻を保有する予定と言われている。

 各船舶の具体的な性能は不明だが、最も小型の機動舟艇が小規模港湾や海浜で重機を揚陸できる能力を有していれば、災害時における海からの輸送での活躍が期待できる。ただし、災害後の沿岸海域には多くの瓦礫の漂流が予想されるので、こうした障害物への対応力は必要になる。

(2) 地方公共団体による輸送用船舶の保有

 海上輸送群が保有予定の機動舟艇4隻だけでは、南海トラフ地震などの大規模災害で想定される広域の被災地への海からの輸送には隻数が少なすぎる。

 しかし、本来任務が防衛・警備の自衛隊に、災害時における海からの輸送のための船舶を多数保有させるのは本末転倒だ。災害対策基本法上、災害対応の第一義的な責任は地方公共団体にあり、災害時における海からの輸送についても国や自衛隊任せではなく、海に面した地方公共団体が輸送用船舶の保有を含めて真摯に取り組むべきだろう。


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