2024年元日に発生した令和6年能登半島地震では、半島北部に通じる山間部および海岸沿いの道路の多くが土砂崩れや津波で通行不能となった。このため、半島南部から北部に向けた懸命の道路啓開が行われているが、本稿執筆時(1月10日)でも依然として通行不能の道路が多く、半島北部の孤立した被災地での被害状況把握、人命救助、支援物資輸送、ライフライン復旧などに支障をきたしている。
一方、海上自衛隊は1月4日に2隻の大型ホバークラフト(Landing Craft Air Cushion:LCAC)を使って半島北部の石川県輪島市の海浜に道路啓開用の大型ブルドーザー、油圧ショベルなどの重機および車両を輸送した。この目的は、半島北部からも道路啓開を進めて孤立の解消を急ぐことであり、海からの輸送が果たす新たな役割として注目される。
空と海からの輸送
今回の地震における能登半島の被災状況は特殊な事例ではない。山地が海岸まで迫っている半島の先端部では、山崩れや津波で道路が寸断されやすい。このため、例えば南海トラフ地震の際には、伊豆半島南部や紀伊半島南部でも今回の能登半島北部と同様、孤立する被災地が多くなるだろう。
また、半島に限らず日本の沿海部には海岸沿いや山中の道路に陸上輸送を依存している地域が多い。こうした地域でも、土砂崩れや津波で道路が寸断されれば、孤立は避けられない。
したがって日本では、災害時に陸上輸送のみならず空と海からの輸送が重要になる。空からの輸送では被災地に直接到達できるヘリコプターが活躍するものの、輸送力の小ささがヘリコプターの課題だ。例えば、自衛隊のCH-47大型ヘリコプターは最大約8.5トンの貨物を積載可能だが、今回LCACが輸送した大型ブルドーザーなどの重機は輸送できない。
一方、海からの輸送では、被災地の大規模港湾を使用できる場合には大型船が大量の重機や物資を直接被災地に輸送できる。しかし、被災地に漁港などの小規模港湾しかない場合、あるいは津波などで港湾が使用できない場合には、海からの輸送は制約が大きくなる。今回の地震では、海浜に上陸可能なホバークラフトのLCACが活躍したが、海上自衛隊が保有するLCACは6隻のみであり、その輸送力は限定的だ。