2024年11月21日(木)

日本の漁業 こうすれば復活できる

2024年1月15日

 こうした資源に対する楽観的見方は、業界団体のなかにもしばしば見受けられる。漁協の全国団体であるJF全漁連の会長は、新春座談会の席上で水産業の10年後の将来展望について問われた際、「魚資源は人間の手で滅んだことはない。マイワシのように、特に回遊魚は、獲れなくなってもどこかにいて回復する」「日本の漁業にはポテンシャルがあり、10年後は明るい」とした上で、「問題は、漁業者の年齢構造。若い人が入らなければ10年後には減ってしまう。就労促進が最大の課題だ」と分析している。確かに、「令和4年漁業構造動態調査」によると、漁業就業者のうち60歳以上の割合は48.76%とほぼ半分を占める。

 しかし、平均年収が136万円の業界に喜んで入ってこようとする若者は、一体どれだけいるのだろうか。家族どころか、一人で生活をしてゆくのにやっとという状態になってしまうではないか。

 年金と併せて釣りをしながら健康的な老後のスローライフを楽しむには十分かもしれないが、人は不老不死ではないので、若者の参入がない限り、漁業者は減少するのみである。農林水産省「漁業構造動態調査」によりと、漁業就業者が20万2880人とぎりぎり20万人を保っていた2010年、60歳以上は8万4520人とすでに41.66%に上っていたが、わずか12年後の22年の漁業就業者は12万3100人と、ほぼ4割も減少している。

魚が滅びる前に、人間の手で漁業が滅びる

 確かに、漁業によって特定の種が全く絶滅してしまうということはめったに目にかからない。それはなぜか。その前に漁業がなくなってしまうからである。

 その典型的な例が、カナダ大西洋岸ニューファンドランド沖のタラの例である。タラ漁業は過去5世紀にわたって行われてきたが、漁業技術の発展に伴い漁獲量は飛躍的に増加、1980年代には漁獲量は24万トンに達し、タラ漁業は約4万5400人の雇用を支えていた。しかし乱獲は資源の急減を招き、1992年には漁業モラトリアム(一時停止)が実施され、約3万人が仕事を失ったのである。

 カナダ政府は2003年に当該個体群を絶滅危惧種に指定、現在でもこの指定は解除されていない。確かにニューファンドランド島沖のタラは絶滅したわけではなく、カナダ政府の管理の下で資源は増加の兆しを見せている。しかしこのことは、乱獲によって資源が滅びてしまう前に、多くの漁業者が先に滅んでしまうということを示している。

 話は日本でも同じである。「ソーラン節」でも歌われているように、かつて北海道では膨大な量のニシンが獲れ、網元は豪華なニシン御殿を建て、まちは大いに潤った。しかし無制約な漁獲の後に資源は急減、ニシン漁の雇用の多くが失われた。

 近年ニシンの漁獲量はわずかに上向きつつあるが、往時にはまだ程遠い(図2)。サンマにしても、水産庁の統計によると08年には35万トンあった漁獲量が、22年現在は95%減の1万8000トンにまで落ち込んでいる。

 漁獲量が急減するなかサンマの回遊域は沖合に移動し、公海では他国も操業する。漁獲の低下にサンマ漁業者は苦しみ、サンマ漁業から離れることを検討しなければならない漁業者も現れている。

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