代わりに大幅に増額されたのが、漁港の整備等に使われる公共予算、漁業者の減収時の損失補填のための補助金、燃油や飼料に対する補助金である。すなわち、18年度の水産公共予算は866億円だったものが24年度は30%増の1143億円に、「漁業収入安定対策事業」の費目の下に行われる漁業者への減収補填補助金(「積立ぷらす」と呼ばれている)は18年度の114億円から375%増の427億円に、「漁業経営セーフティーネット構築事業」の費目の下に行われる燃油・配合飼料に対する補助金は18年度の1.6億円から2375%増の385億円に増加し、これらだけで水産予算の6割以上を占めている(図1)。
補助金予算増額支える業界団体の声
こうした予算の配分は、業界団体の強い要望が背景にある。以前の拙稿「『国破れても漁港あり』漁港予算確保の前にすべきこと」でも取り上げたが、水産土木に関しては、自民党の衆参両院議員144人によって構成される「漁港漁場漁村整備促進議員連盟」という「政」、水産庁漁港漁場整備部という「官」、同漁港漁場整備部長OBが一貫して歴代会長や理事長に天下っている「全国漁港協会」や「全日本漁港建設協会」という業界団体を核とする「業」という、典型的な「政官業のトライアングル」が成立している。予算の充実を訴える「業」の声を議員という「政」が後押しするという構図である。
漁業者への損失補填と燃油補助も、業界団体が一貫して訴えてきたことである。海面漁業生産量は1982年をピークに低落を続け、2020年には7720億円と1980年代以降過去最低を記録した。2021年には8058億円とやや増加したものの、これは同年ホタテガイを中心に価格が回復したこと等によるもので、一貫して減少を続けている漁業生産量は22年、統計史上最低の289万トンを記録した。
農林水産省「漁業経営に関する統計」によると、22年度現在沿岸漁船漁業漁家の漁労所得は僅か136万円である。漁獲と漁業収入の減少に対して業界団体が一貫して求め続けたのが、減収補填に対する補助金の増額であった。
「魚が人間の手で滅んだことはない」
他方、資源管理予算については業界内から積極的に推す声はあまり聞こえてはこない。これまで対象が8魚種のみだった漁獲総枠(TAC)の導入についても、ようやく今月(24年1月)からカタクチイワシとウルメイワシの日本海・東シナ海に分布している系群(対馬暖流系群)が追加されることが決まり、7月からマダラの本州日本海北部系群への導入が予定されているにとどまっている。
一部の漁業者・漁業団体からの反対が根強いからである。例えば水産庁は太平洋に分布している系群のカタクチイワシとウルメイワシに対してもTACの導入を進めようとしたが、「とにかくTACは反対」と反対の声が上がり、議論は停滞している。現行の漁業者間での自主ベースの管理で十分だ、上から資源管理を押し付けなくても大丈夫だ、などとする声が強いのである。