政府とともに対応を検討してきた大企業の間では24年4月以降への認識も準備も一定レベルにあると考えられる一方で、日本の企業数の99%以上、従業員数の70%近くを占める個人事業主や中小企業が「2024年問題」に対応できていない。日本のサプライチェーンに混乱が発生する可能性が大きいと言わねばならないであろう。
農産・水産品から崩れる
日本のサプライチェーン
「2024年問題」がソフトランディングしなかった場合、どのような混乱が発生するのだろうか。次図は、ドライバーの残業規制に何も手を打たなかった場合に不足すると予想される輸送力の割合である。
ドライバーの残業規制に何も手を打たなかった場合、全産業で14.2%の輸送力が不足すると予想されている。産業別にみた場合、農産・水産品産業において32.5%という圧倒的に大きな輸送能力不足が発生すると予想されている。ただ、これも農産・水産品の分野だけに影響を及ぼすといった単純な問題ではない。
農産・水産品というサプライチェーンの最上流に近い産業で大きな輸送能力不足が発生した場合、その下流にある加工食品や飲料の製造業への原料の供給にも影響が出ることは必至だ。それは、さらに下流にある卸売業への食料品や飲料の供給、最下流の小売業へも波及することを意味している。
すなわち、農産・水産品産業の輸送能力に30%以上の不足が発生すると、加工食品メーカーや飲料メーカーへの原料供給が滞り、結果としてスーパーマーケットや食料品店の売場に大きな商品不足が生じる。消費者が必要な食料品や飲料を購入できなくなり、生活にも大きなダメージを与える可能性が高い。
「2024年問題」とは、単にトラック運送事業者を中心とする物流事業者の問題ではなく、サプライチェーンに関与する製造業や卸売・小売業を含む全ての産業が主体性をもって取り組むべき課題なのである。大企業であろうが中小企業であろうが、あるいは、荷主企業であろうが物流企業であろうが、関わる全ての事業者が当事者意識を持つことが不可欠なのである。
冒頭の「持続可能な物流の実現に向けた検討会」の中間取りまとめでは、高齢化等によるドライバー数の減少で30年には輸送能力の34.1%が不足する可能性も指摘されている。サプライチェーンがいずれかの時点でハードランディングする危険性が高いと考えねばならない。
特効薬ではない
「モーダルシフト」
そのような状況を背景として先述の「物流革新緊急パッケージ」でも取り上げられたのが、トラックドライバーの時間外労働を吸収し、トラック輸送能力の不足をカバーする「モーダルシフト」の推進である。モーダルシフトは中長期的には不可欠な対策であることは間違いないが、当面の即効性には議論がある。
実は、鉄道輸送や内航海運のシェアは長期間かけて減少してきている。輸送機関の分担率を重量ベースで見てみると、特に鉄道輸送は1950年時点で26%以上であったものが2019年には1%を切っている。
鉄道貨物輸送にかかわるインフラも縮小してきた。鉄道貨物輸送の車両台数は04年から22年の間だけを見ても、約60%弱まで減少している。重量ベースで90%以上の分担率を有するトラック輸送の負荷軽減のために鉄道輸送にシェアをシフトさせるには、鉄道車両を含むインフラの大幅な拡充が不可欠であるが、それには中長期的に取り組んでいくしかないのである。