資源管理に取り組んだ結果、やがて資源が回復すれば、漁獲量と漁獲収入は回復・増加し、減収補填プログラムはその役割を果たしたと言えるであろう。趣旨としては悪くない、いや、なかなか良くできた制度のように思える。
このプログラムが始まった当初、水産庁の担当者も「水産庁始まって以来の大型事業」「今までの資源管理の集成として今後の資源管理の根幹をなすもの」と謳っていた。森健水産庁長官も本年年頭の記者会見で、「積立ぷらすは減収補填という守りの面があるが、対象は資源管理計画に取り組む漁業」とその意義を強調している。
与党議員すら訝る声出る「資源管理計画」の内実
しかし、この減収補填プログラムと資源管理計画については、かねてより形骸化しているものがあるのではないかといった疑義が与野党の国会議員からも提起されてきた経緯がある。
2019年に自民党行政改革推進本部規制改革検討チームが発表した提言では「漁業者の自主的な取組である資源管理計画については、ほとんどが情報公開されてこなかった上に非科学的な指標を用いており、科学的な検証を行えない」と指摘されている。自民党水産部会・水産総合調査会合同会議の場でも、小里泰弘衆院議員から資源管理計画について、「休漁日が設定されるが、あえてしけた日に休む場合が多い。これでは今まで(管理のなかったころ)と変わらない」との苦言も呈されている。
国会の場でも日本維新の会の儀間光男参院議員より「資源管理計画として実施してはきたんですが、正直言って余り効果が出たという評価はない」と指摘も出ている。資源管理計画とセットとなっている減収補填プログラム「積立ぷらす」について日本共産党の田村貴昭衆院議員からは、国際的な規制の下で漁獲減を遵守しているクロマグロを漁獲する小規模零細漁業者の加入率が高くなく、かれらのまじめな努力が報われていないとの批判もされている。資源管理計画やその評価は一般に公開されておらず、どのような内容であるのかがブラックボックス化していた。
形骸化する建前、「週1回の休漁」で所得補償
そこで筆者は21年漁業・養殖業生産統計において漁獲量が多い上位10道県(北海道・茨城・静岡・長崎・宮城・三重・千葉・宮崎・島根・鳥取)を対象として情報公開請求を行い、個々の資源管理計画及び各道県によって行われた資源管理計画に対する評価・検証の詳細について入手するよう試み、このほどその結果を含めた内容の一部を専門誌でも公にした(真田康弘「漁業補助金とWTO漁業補助金協定:我が国の漁業補助金の現状と協定が国内政策に与えるインプリケーション(新・環境法シリーズ/第145回)」『環境管理』2024年3月号)。
表1は、各道県における資源管理計画数と資源管理計画に含まれる自主管理措置の内訳表したものである。北海道は漁協別である一方、茨城は漁業種別、静岡や長崎県は漁協における魚種・漁業種別等で資源管理計画が策定されているため、各道県における資源管理計画数には相当程度のばらつきがあるが、多くの道県において共通して見られるのが、休漁とクロマグロの規制に関する措置が相対的に多く、なかでも休漁が非常に多いという点である。
このうちクロマグロに対する規制は、中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)という西太平洋海域におけるかつお・まぐろ類を扱う国際機関によって決定された漁獲規制強化を受けたものであり、この取組の実施に関するものである。また、従来補償基準額は漁業収入が右肩下がりになると補償額もそれに対応して減額されるが、クロマグロについては基準額が固定され、その95%が補償される手厚い内容となっている。