2024年7月16日(火)

家庭医の日常

2024年4月29日

飲酒量と疾患発症リスクの難しい関係

 厚生労働省のガイドラインでは、純アルコール量でこれ以上の飲酒をすると発症等のリスクが上がると考えられるものが、下記のように示されている(「0グラム」は、少しでも飲酒するとリスクが上がるという意味)。参考にした研究結果は、多くが10年以上前に発表されたものであるが、日本人を対象としている。

脳卒中(出血性)は、男性で1日20グラム、女性で0グラム
脳卒中(脳梗塞)は、男性で1日40グラム、女性で1日11グラム
高血圧は、男女とも0グラム
胃がんは、男性で0グラム、女性で1日20グラム
肺がん(喫煙者)は、男性で1日40グラム、女性はデータなし
肺がん(非喫煙者)は、男性は関連なし、女性はデータなし
大腸がんは、男女とも1日20グラム
食道がんは、男性で0グラム、女性はデータなし
肝がんは、男性で1日60グラム、女性で1日20グラム
前立腺がん(進行がん)は、男性で1日20グラム、女性はデータなし
乳がんは、男性はデータなし、女性は1日14グラム

 国内では、「生活習慣病のリスクを高める量(1日当たりの純アルコール摂取量が男性40グラム以上、女性20グラム以上)を飲酒している者の割合を男性13.0%、女性6.4%まで減少させること」が「アルコール健康障害対策推進基本計画」の第2期計画の重点目標となっており、今年度開始予定の国民健康づくり対策「健康日本21(第三次)」では、その男女合わせた全体の目標値が10%に設定されている。

 「疾患ごとに数値が出ていても具体的にどうしたら良いか分かりにくいし、まとめて目標値を設定されても何かピンと来ないわ」とY.I.さん。

 「脳梗塞にはなりたくないから制限は1日40グラムまでにして、大腸がんになるリスクについては目をつぶろうってのもおかしい気がします」とM.I.さん。

 「多くの研究が対象疾患一つだけを持った人のデータを集めたものだからこうした結果になるんです。実際には複数の疾患を持っている人が多いですが、その組み合わせは多様になるため、研究するのが困難になるんです。それから、国民など集団としての目標設定(ポピュレーションアプローチと呼びます)なのか、リスクの異なる個人についての目標設定なのかの違いがあります。このガイドラインはポピュレーションアプローチとしての目標設定が前面に出ていますね。だから、Y.I.さんとM.I.さんのように、こうして個人の目標設定について家庭医と相談してもらうことは大事です」

安全と言えるアルコール使用量は存在しない

 健康に配慮した適切な飲酒量・飲酒行動を考えることの難しさは、最近の研究エビデンスの変化が関係している。それには、2018年に英国の医学雑誌『ランセット』に発表された、世界195の国と地域でのアルコールの消費量、そしてアルコールに起因する死亡と障害調整生存年数の推計についての研究論文が影響している。

 従来の研究エビデンスでは、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)と糖尿病などの疾患に対しては、少量のアルコール摂取に予防効果があることが示されていた。しかし、個人および集団としてのアルコール消費量の改善された推計法と、アルコール使用とそれに関連した健康アウトカムについて新たに実施したシステマティック・レビューとメタアナリシスを含めて検討したこのランセット論文の結論は、「アルコール使用による健康の喪失を最小にするアルコールの使用量はゼロである」というものである。


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