2024年7月16日(火)

令和の日本再生へ 今こそ知りたい平成全史

2024年5月22日

米中対立の激化を背景に
存在感が増す日本

 外交・安全保障と経済の日米連携は表裏の関係にある。岸田首相とジョー・バイデン大統領が4月10日に発表した日米共同声明をみよう。

 まず外交・安全保障。米軍と自衛隊のより円滑な相互連携に向けて、指揮・統制体制を日米が向上させる。キーワードはInteroperability。「相互運用性」と訳され、両国の軍がお互いに連携して活動することだ。

 日本は自衛隊に「統合司令部」を設置する。陸海空の自衛隊を一元的に管理するとともに、米軍と円滑な連携を図れるようにするのだ。それに合わせて、米国はハワイのホノルルにある米軍インド太平洋軍司令部の実質的機能を日本に移す。日米が念頭に置くのは中国である。

 次に経済。日米首脳会談後に発表されたファクトシート(概要書)が興味深い。「民間部門投資」と題して、日米主要企業によるお互いの国への投資の事例を列挙している。

 マイクロソフトは今後2年間で29億ドル(1ドル=155円換算で約4500億円)を日本に投資する。AI、クラウドコンピューティング、データセンター、300万人を超えるデジタル人材育成プログラム、日本におけるマイクロソフト・リサーチ・ラボの設立などのためだ。

 グーグルはノース・パシフィック・コネクトのデジタル連結性のために、10億ドル(約1600億円)の投資を計画している。日本とハワイを結ぶ海底ケーブルのことで、同社はNECと組んでいる。海底ケーブルは安全保障上も重要で、フィリピン、台湾、太平洋島嶼国とも結ばれる。

 アマゾン・ウェブ・サービスは27年までに日本に約150億ドル(約2兆3000億円)を投資する。日本でのAIなど、デジタルサービスの基幹となるクラウド・インフラを拡充させる。日本企業や行政機関からのクラウドの注文は、アマゾンやマイクロソフトにとって金城湯池なのだ。

 一方、トヨタ自動車は電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車向けのバッテリーの生産能力向上を目的に米国に80億ドル(約1兆2000億円)を追加投資し、3000人超を追加雇用する。ホンダエアクラフトカンパニーは「ホンダジェット2600」の生産に5570万ドル(約86億円)追加投資する。

 いずれも投資先はノースカロライナ州。米大統領選挙の激戦州だ。ともあれ、日米の企業活動が「ウイン・ウイン」の関係にあると、両国政府はアピールする。

 株式市場で注目の2社がある。1社目は東京エレクトロンだ。地味な半導体製造装置のメーカーだが、米中対立が激化するなか、経済安全保障のど真ん中に入った。米国が半導体製造装置の対中規制を厳格化するなか、その技術力に脚光が当たったのである。

かつて「半導体大国」だった日本は存在感を取り戻せるか(SWEETBUNFACTORY/GETTYIMAGES)

 折しも対話型AIサービス、ChatGPTに代表される生成AIの普及で、半導体の需要はうなぎ上りに。半導体に欠かせない半導体製造装置や素材を得意とする日本企業に追い風が吹く。東エレク、アドバンテスト、キーエンス、信越化学工業などだ。

 1990年代に日本の半導体産業が米国による〝潰し〟に遭うなか、製造装置や素材が踏ん張り技術を磨き続けたことが、ここへきて開花した。半導体の本体でも、経済産業省の肝いりでラピダスが先端半導体に再挑戦する。このラピダスにはIBMなど米企業が協力姿勢をみせる。

 岸田首相が訪米中の4月11日、ラピダスは米シリコンバレーに新会社を設立したと発表した。米国のハイテク企業から直接に注文を受け、AI製品向けに先端半導体をつくっていく。カスタマイズした開発・生産は、日米の協調体制があって初めて可能になる。

 もう1社はトヨタ自動車である。環境を錦の御旗にEVに追い風が吹き、ハイブリッド車を得意とするトヨタには逆風が続いたが、昨年後半あたりから風向きが変わった。EVへの追い風がやんだのだ。きっかけは、補助金を武器にした中国によるEV輸出攻勢である。

 今年に入りドイツのメルセデスは100%EV化の計画を止め、アップルもEVのアップルカーの開発中止に追い込まれた。米国のテスラも中国の安値攻勢に手を焼く。

 見逃せないのはEVの原材料の供給源。心臓部のバッテリーに欠かせないリチウムや黒鉛などは、中国やその影響力の強いグローバル・サウスと呼ばれる新興国に握られている。欧州の脱炭素戦略がロシアのガスパイプラインに依存したのと同様に、EVの〝首根っこ〟は中国に握られている。

 中国がガソリン車からEVへの移行を加速するのは、環境への配慮ばかりではない。①ガソリン車の燃料である石油輸入を抑えつつ、②必要となる電気は国内の石炭を発電に利用し、③EVという新たな自動車市場を安値攻勢で抑えにかかる─という戦略に基づく。日本は警鐘を鳴らし続けたが、米欧の環境至上派は耳を塞いでいた。


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