ついに米欧当局も不都合な真実から、目を背けていられなくなった。しかも国土の広い米国ではEVの充電ステーションの整備が追いつかない。EVの初物買いが一巡したところで、ハイブリッド車が米国の消費者に見直された。EVの中古価格の下落は消費者のEV離れを物語る。
かくてトヨタが〝棚ぼた〟式にハイブリッド車の売り上げを伸ばした。バイデン政権のEV志向は変わるまいが、EV一本やりでメーカーを追い詰めるような局面には幕が引かれつつある。日本メーカーはよりエネルギー効率の高いEVを開発するための時間を買えたといえる。
欠かせない存在となれるかが
本格回復できるかの鍵
日本が不得手とするルールづくり。そこに〝追い風〟になりうるのが「AI革命」だ。90年代以降のIT時代は米国の独壇場で、日本にとってはいいとこなしだった。
ウインドウズ95の登場、インターネット革命、ドットコムバブル、GAFAによるプラットフォーム(ITの基盤環境)の席巻。日本勢はなすすべを知らなかった。だが、人がつくり出すような文章、画像、音楽をAIが生み出す。そんな生成AIの登場は世界を再び一変させた。
日本は仕事や生活に生成AIを生かすことに抵抗が少ない。鉄腕アトムを生み、アニメに創造力を発揮する。そんな日本は生成AIで先頭を走る米国にとって、良きパートナーだ。
事実、この分野のトップを走る米国の「オープンAI」は4月15日、アジア初の事務所を東京に開いた。創業者のサム・アルトマン氏は何度も日本を訪問している。昨年来の日本詣での狙いは生成AIのルールづくりに日本を巻き込むことだった。
昨年は日本が主要7カ国(G7)の議長国。欧州がAIへの規制を優先させがちな一方、米国はなるべく自由なAIの展開を進めたい。両者のバランスを図りつつ、日本はG7としての生成AIのルールづくりに向けた「広島プロセス」を合意させた。
昨年12月1日にG7デジタル・技術相会合で、開発者から利用者まですべての関係者が守るべき責務を打ち出したのだ。生成AIのルール作りに、初期段階から主導権をとれた意義は小さくない。
「失われた30年」のトンネルから抜け出たことで、日光のまぶしさに目のくらむような感覚を抱く向きは多いはずだ。戦後の日本はキャッチアップ型で成長を遂げたが、追いかけるモデルがなくなっている。そんな今、日本は自らモデルをつくっていかなければならない。
産業に不可欠な要素技術は日本の強みだし、「黒子路線」であっても全く恥じることではない。むしろその優位性を磨くべきだ。民間企業の生産性を上げるのは基本だし、「官から民へ」という方向性も大切であるにせよ、重要なのは何で稼ぐかである。
冷戦後の金縛りが解け、日本の戦略的な重要性が見直されている。その追い風を生かし、「扇の要」のように、「日本にしかない技術」、「日本がいないと全体が完成できないような技術」を磨くときだ。
NTTが手塩にかけて育ててきた次世代情報通信基盤「IOWN(アイオン)」はその一つだろう。光と電子を組み合わせた技術は「光電融合」と呼ばれ、現在の半導体に比べて省電力、高速度、高容量の通信を可能にする。
そのNTTには日本国内だけにとどまり、世界標準化に失敗したインターネット接続サービス「iモード」の苦い教訓がある。そこで「IOWN」は米インテルやソニーグループとの共同研究としてきた。日米間の関係が深化することは、こうした技術開発を後押しする。
同盟国である米国との間で、お互いの得意技の「相互補完関係」を強めていく。民間企業が安心して長期投資できる分野を政府が示していく。企業経営者がチャンスを生かし動き出せば、日本経済は今度こそ本格回復の道をたどれるだろう。
1995年度に142兆円だった日本企業の内部留保(利益剰余金)は、2022年度には555兆円に膨らんだ。今はその儲けを抱え込む時ではない。ここがロドスだ。ここで跳べ。