踏み込んだ一線
現在のウクライナ侵攻において、ロシアはウクライナ東部ハリコフ州の戦線で攻勢をかけていると報じられているものの、領土の大幅な占拠拡大などの事態には至っていないもようだ。
さらにイタリアで開催されたG7では、ロシア中央銀行の凍結資産をウクライナ支援に活用する方針が決まったほか、米国が二国間の安全保障協力協定をウクライナと結ぶなど、ロシアに対抗するG7の姿勢に、現時点で大きな変化は見られない。昨年12月に米政府が打ち出したロシアと中国などの第三国の貿易を事実上抑制する制裁が効果を発揮しているとみられる。
これに対しプーチン大統領は、G7開催中の7月14日、ウクライナとの将来的な停戦に至るには、ロシアが実効支配するウクライナ南部クリミア半島と、さらにロシア側が「併合」を一方的に宣言したウクライナ南、東部の4州を放棄することが条件になると表明した。合わせて、ウクライナが将来的な北大西洋条約機構(NATO)加盟を断念する必要があるとも主張した。
いずれも、ウクライナ側がこれまでも拒否してきた案件であり、受け入れられる余地がまったくない内容だ。ロシア側はむしろ、停戦の見込みが、現時点ではまったくないことを欧米諸国に主張する狙いがあったとみられる。
プーチン氏がさらに、北朝鮮訪問に踏み切れば、同国の武器供与を受けてウクライナ侵攻が今後さらに長期化し、アジア太平洋地域の安全保障環境が著しく悪化するというメッセージを、欧米諸国に突きつけることになる。
ただ、ソ連時代の歴史が示すように、ロシア・北朝鮮がどこまで信頼できるパートナーシップを構築できるかは不透明だ。北朝鮮の軍事力が極度に高まることは、北東アジアに領土を持つロシアにとっても好ましいことではない。プーチン大統領は、長期化するウクライナ侵攻の出口が全く見えなくなるなか、危険な〝禁じ手〟に手を出しているのが実情だ。
さらに北朝鮮は実際には、貿易の9割超は中国との間で行っており、ロシアは数%に過ぎないとされるなど、中国と比較してロシアの存在感は決して高いとは言えないのが実情だ。
そのような環境下で北朝鮮を自陣営に取り込もとうとするロシアの戦略はむしろ今後、北朝鮮側のペースで進められる状況も考えうる。プーチン氏の戦略は、過去を振り返るならば、むしろ同氏が置かれた厳しい状況を浮き彫りにしている。