既存の政策の整理・見直しが前提
森林環境譲与税を使ってできる事業の中身はと見ると、ほとんど既存の補助事業と同じで新規さはない。もともと経常予算の適用事業拡大で何でもできるようになっているのだから、林野庁からすれば、森林環境譲与税は予算枠の拡大みたいなものである。本音を言えば市町村が林野庁の政策の枠からはみ出して、独自色を強めることを警戒している。県や市町村をあくまで国の出先にしておきたいのだ。
2024(令和6)年度の林野庁予算が約3000億円、23(令和5)年度補正予算の花粉症対策等約1400億円の実行は24年度となっており、これに森林環境譲与税の約600億円が追加される。3000億円が5000億円に急伸したが、使い切れるのかいささか心配だ。
現場の林業労働力は急激に増やせない。もし不用額でも出せば、次年度は経常予算をカットされることになりかねない。事業実行を担う森林組合などの事業主体に無理矢理事業を押し付ければ、困った事業主体が目的外に流用して、会計検査で指摘されるような事態にならなければよいが。
そもそも森林環境税を創設する際に、既存の補助事業を精査して、森林環境譲与税の事業とバッティングしないように整理しておくべきだろう。別枠なら別枠らしく、もっと特化した内容にすべきである。そうしないと経常予算が減額されてしまい元も子もない。
一番心配なのは、前々から事あるたびに言っていることだが、急激な予算の拡大が安易に皆伐の拡大につながることである。補助金や剰余金目当てに皆伐が増えても木材価格は下がるだけだし、皆伐によって生じる跡地は山地災害に曝される。森林環境税が森林破壊を促進したのでは笑い話にもならない。
森林環境税でフォレスターを採用を
ここまでさんざん森林環境税の悪口を言ってきたが、筆者は山村や森林・林業にかかわる予算が増えることには大賛成である。とめどない大都市の進展は、国土の3分の2を占める森林に支えられていることを認識すべきだ。
問題は、予算の受け皿である市町村や現場にポリシーが不足し、実行態勢が整っていないことにある。地道な態勢づくりをしないで、いきなり資金を投入しても消化不良を起こすだけなのだ。いつもこの轍を繰り返しながら一向に改善しようとしない。政治家も官僚も目を覚ませ。
森林・林業に限らず国庫補助事業で何でもかんでも国主体になりすぎて、県や市町村がおんぶに抱っこの癖から抜けきれない。これは国の責任である。地方自治が機能していないのだ。
長年、地方自治体が国の出先的なことしかしていないのだから、企画力を発揮できず、ポジティブリストが出回る事態に至る。それに市町村は職員数が少なく、国や県から流れてくる多様で専門的事業に対応するのは大変だ。
限られた人材で多種類の事案をこなさなければならない。この解消がまず必要である。
つぎに、林業現場の担い手不足である。林業労働は肉体労働だと思われがちだが、実は極めて知的な仕事である。変化の激しい地形を読んで、日々の気象に対応し、森林の生態に熟知していなければ、効果的で、安全で、能率のあがる仕事ができないのだ。
この知的側面が不足すると労働災害の発生につながり、あらゆる業種の中で林業が断トツで危険な仕事になったままだ。林業就業の一番の阻害要因は何と言っても労働災害であり、これを減らさないことには森林・林業の未来はない。