2024年12月26日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年7月5日

 2024年6月6日付のワシントン・ポスト紙は、中国の台湾に対する「グレーゾーン戦略」(武力行使に至らない戦略)が激しさを増してきているが、西側諸国は、この戦略を抑止しなければならないとのケビン・ラッド元豪州首相の主張を掲載している。

中国の習近平国家主席(ロイター/アフロ)

 中国は、実際の武力侵攻に至らぬ方策として、台湾に対し、その統一を達成するため、さまざざまな戦略に着手している。

 中国は、台湾と国際世論に圧力をかけ、「灰色戦略」を進めている。この「灰色戦略」とは、「対応にコストの掛かる反撃を敵から受けぬようにしながら、経済面、軍事面、外交面で実益を得る戦略」、「戦争一歩手前の手段」だと言う。台湾の人々の政治的意見や心理に影響を与え行動を変化させることを目的とした政治、軍事、外交、経済、サイバー等の手段だ。

 政治的な手段としては、台湾統一に反対する台湾の政治家の正当性を失わせるため、中国は政治的攻撃を強化している。軍事的な手段としては、中国の海空軍、沿岸警備隊その他の部隊が台湾との中間線、台湾の接続水域、台湾の沖合の島々やその周辺に侵入し、台湾の政権がその主権の主張を擁護できないことを台湾人に示すことを意図している。

 経済的な手段としては、台湾の貿易、投資その他の国民経済を阻害することを目的として、懲罰的経済圧力をかけ、台湾政府の弱さを見せつけようとする。台湾の経済・通信インフラへのサイバー攻撃も、台湾の人々に対し、台湾のシステムはサイバー攻撃に脆弱性があることを見せつける意図があった。

 南シナ海と東シナ海で中国が行っている「戦争一歩手前の戦略」は、中国が台湾に対し実施している「灰色戦略」と類似する。中国空軍は尖閣諸島周辺で日本に対し出撃を繰り返し、また、中国はセカンド・トーマス礁でフィリピンに対し、戦争には至らない激しい攻撃的行動をしている。

 台湾に対しても、中国の戦争寸前行動が頻繁にみられる。ただ、中国が「灰色戦略」による行動をとっているのは、必ずしも中国が武力で台湾を奪取するのを中止したことを意味しない。


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