2024年7月17日(水)

Wedge REPORT

2024年7月17日

 また葬儀も、今や家族葬つまり近親者だけの小規模化が進んでいる。告別式をせず直接火葬する直葬も増えた。高齢者は亡くなるまでの介護年数が伸びたため、介護に費用を取られて葬儀や墓地にあまり金をかけない傾向が進んでいた。

 加えて家の宗教的な結びつきも弱まったことで、儀式の簡素化が進み、さらに火葬後の遺骨の引取を断る話もある。また墓を造らず遺骨を自宅に置いたままのケースも増えているそうだ。

 そこに登場したのが樹木葬だったのである。樹木葬は、墓石の代わりに樹木を植える、もしくは森に生えている樹木の下に埋葬する形態である。基本一人一墓で、永代供養し宗教宗派を問わない。さらに多くが生前契約だった。

千葉県袖ケ浦市の真光寺の樹木葬

 費用もかなり安くつく。ケースバイケースだが、石墓の半分以下が多いようだ。永代供養だから墓の継承や管理費もいらない。遺族が助かるだけでなく、墓地経営者も生前に契約金を受け取れることから好都合なのだ。

 なおペットと一緒に埋葬してほしいといった希望をかなえられるのも樹木葬が多い。通常の墓地は、人間以外は埋葬禁止である。

樹木葬はどう生まれたのか

 樹木葬という墓地を最初に開いたのは、岩手県一関市の知勝院の千坂嵃峰(げんぼう)住職(当時)である。1999年のことだ。里山を整備して、お骨を地面に直に埋葬するものだった。そしてその脇に記念樹を植える。

〝樹木葬発祥の地〟とされる知勝院

 故人の名は小さな木片に記されるが、時とともに土に還る。一人一墓、永代供養、宗教宗派も問わないなどの形式を考えたのも、千坂住職だった。

 この樹木葬には、里山再生という目的があった。荒れた山を整備し、墓標とする樹木を育てることで、森を復活させようと考えたのだ。また遺族は樹木を目印に墓参りするが、墓の継承者がいなくなる将来は森になり、お骨も土に還る、と考えたのである。

 なお遺骨を粉にして海や山に撒く散骨も、ほぼ同時期に広がっている。こちらは自然葬とか循環葬と呼ばれる場合もある。樹木葬の中にも遺骨を埋めるのではなく森に撒く形式もある。いずれも遺体・遺骨を自然界に還す発想と言えるだろう。

 こうした埋葬法の選択は、当の本人が望み、生前に永代供養してくれるところを探して契約することが多い。この点も「終活」ブームと結びついているのだろう。

「自然に還す」で世界でも浸透

 実は、こうした傾向は世界的に起きている。というのは、埋葬が環境問題になってきたからだ。

 欧米では土葬が主流だが、それだけに面積が広く必要なため、墓地の土地不足に陥った国もある。そこで遺体を埋葬後に自然に還ることが求められた。

 ドイツやスイスでは、森を墓地とする樹木葬が広がっている。林業家が墓地の運営も行うのである。

 米国でも自然の中に埋葬する墓地は増えてきた。埋葬地に豊かな生態系を誕生させたことで、自然保護区の一部に指定された事例もある。

 韓国は、もともと土葬で大きな墓をつくる伝統があった。しかし、墓地によって森林破壊が進む傾向が強まり、火葬が推進されるとともに、樹木葬と散骨を国の制度として推奨している。ほかに台湾や中国でも、樹木葬や散骨は広がっている。

 もともと墓は、死後も後世に自らが生きた証を残す意味があった。復活を願う信仰もあったのだろう。しかし、現代では自然に還りたいという思いが世界的に広まりつつあるようだ。同時に環境に優しくありたいという発想が強まっている。


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