2024年8月10日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2024年8月10日

 ウオーキングが健康にいいと言われますが、何もしてなかった人には確かにいいんです。でも、ちょっとやると頭打ちが来て、運動の強さも時間もあまり大きくないので効果もほどほどです。軽登山はゆっくり歩いていても運動の強さはサッカー並みで、時間も長いので、よりしっかりと有酸素運動をさせてくれます。

 それに真夏の平地ウオーキングはあまり面白くないでしょ。「登山と同じだから階段昇降をやれ」と言われても、誰もやらないと思うんです。登山は自然にほどほどのハードな運動を長時間楽しくできる特徴があるのです。

 世界中でそうですが、運動は健康にいいと誰もが知っているんです。それでもやらない人が多い。それは、運動が面白くないからなんです。登山は結構ハードですが、好きになったら、誰が止めてもやるぞっていう性質があって、メリットが非常に大きい。

 それでも、暇がないからと1カ月に1回、ハードな登山をやると逆に体を壊しちゃうデメリットもあります。

 ――月に1度登る平均56歳の804人と比べると、佐賀のグループの方が山を登っているときの膝や腰の痛み、心肺の苦しさもはるかに少ない。そういう結果も本に出てきます。

 月に3日か4日、近所の山を3時間ぐらい歩くような軽登山が一番健康にいいんです。そう言われても、時間がないとか、そんな低い山を歩いてもしょうがないという人もいますが、体にいい上手な登山が盛んになればいいなと僕は思っています。

山が好きな理由は人それぞれ

 ――登山はたまに行くと、ウオーキングではあまり使わない腿など全身の筋肉を使うため、しんどい思いをします。でも頻繁に行き続けると、体が慣れてきて、行かないと気持ちが落ち着かなくなるような、独特のひきこまれ方があるように思います。運動生理学的に見て「山にひきこまれる」とはどういうことなのでしょうか。

山本さんのインドヒマラヤのシヴリン遠征時の一コマ

 それは想定外の質問ですね。本の冒頭でも書きましたが、「なぜ山が好きなんですか」と聞いたら百人百様の答があると思うんです。ひかれる理由は人それぞれで、そこが山の魅力という気がします。例えば野球やサッカーでは「ここがいいんだ」と似たような答が返ってくるように思うんですが、山の場合、千差万別です。気持ちがいい、精神が安定する、体がすっきりする、景色が美しい、植物を見られるとか。人としゃべりながら帰るのが楽しいという人もいます。好きになれる要素が多様で、各人がいいところを見つけて帰ってこれます。

 セロトニンやドーパミンなどの「幸せホルモン」が出るといった研究もありますが、それだけでくくっちゃうのはもったいない気がするんです。

 本当に山が好きになっちゃうと、例えば「山に行けるから頑張って生きてられる」というがん患者もいますし、高齢になり「山をやめたら」と言われても、「絶対にやめたくないから、山本さん、なんとかしてほしい」と言ってくる人もいます。なぜ登るのかは自分しか知らないんだという、そんな魅力があるんじゃないですか。


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