思考するのにもちょうどいい
――データを見ると、多くの人が軽登山をすれば精神的、肉体的にも非常に健康な社会になる気もしますね。
そうです。日本って全国に山があるし、低い山なら年齢とか体力に関係なくできます。いま里山が荒れていると言われますが、軽登山が盛んになれば、登山道も復活すると思います。
あちこちの山にみなが行くようになれば、経済効果もあるし、各地の文化や地理、歴史にも目が向く。人を健康にし日本全体を活性化する可能性もあるかなと思って。
――あと、自然を前にすると人も謙虚になりますよね。グループでも歩いているときはひとりですから、黙って考えますし、一種の瞑想のような時間も持てます。
その通りです。瞬発的な反応を競うスポーツに比べ、登山は何時間も黙々と歩く単調な運動です。ウオーキングよりもゆっくり歩きますから、思考をするのにちょうどいいんです。
人間の認知能力は、強すぎる運動でもじっとしていても下がる。中ぐらいの運動が一番活性化するという研究結果もあります。
僕も研究で行き詰まったとき、山に行って解けることが結構あります。ぼーっと無心になっていたり、人がいたら喋ったりと、多様な経験ができるのも山の良さです。
ーー何が山本さんを登山に引き込んだのですか。
中3のとき、ガイドブックを買い、リュックサックに水や懐中電灯を詰めてひとりで埼玉県の武甲山に行きました。植物観察が目的でした。人の多いコースではなく、名栗渓谷からの長いルートで、道がはっきりしないところもありました。
段々道がわからなくなって不安にかられ、山が与える試練みたいなものもあったけど、最終的に頂上について「良かったあ」ってなって。その達成感と無事降りてきた解放感。大げさに言えば、初めて冒険して帰ってきた感じでした。
その後もひとりで行き続けたのはその実感を味わいたかったからなんです。
高校のとき、東北の朝日連峰で暑さにやられながら、稜線のテントにひとり泊まっていて、夜中におしっこをしに出たら、ものすごい星で、もう怖くなって寝袋にくるまってブルブル震えていたことがありました。原始的な光景というのか、星が怖かったんです。
山に行くたびにそういうことがあって、不安に脅かされながら達成して帰ってくる。それが本当に嬉しかったんです。