若手のホープ、小林鷹之氏が急浮上してきたのは、当選年次の若手議員らが危機感を抱いた結果ならば、歓迎すべきだろう。
しかしその小林氏にしても、最近出演したテレビ番組で、裏金事件で安倍派議員が処分されたことについて、「やりすぎると現場が回らなくなる。(処遇は)バランスを取ってやればいい」と言い放った。処分見直しを暗に主張したのだろうが、「早くも喉元過ぎたのか」と国民の反発は必至だろう。
小林氏を推しているのは安倍派若手といわれる。それら勢力に秋波を送って、それと引き換えに総裁選での支援を求めるという意図なら、フレッシュな人物が旧態依然とした手法に乗って政権を手に入れるという皮肉なアンバランスを生む。総裁選の行方を危惧させる発言というべきだろう。
なぜトップを盛り立て、支えられぬ
それにつけても残念、見苦しいのは、裏金問題の過程で、岸田政権の支持率低下とともに、党内から公然と退陣を求める声がわきあがってきたことだ。
来年秋までに選挙を戦わなければならない若手議員にとっては、自らの当選を後押ししてくれる人気高い政権がのぞましいのは、十分理解できる。しかし、自分たちが選んだ総裁ではないか。責任を分かち合って盛り立て、有権者に党への理解を求め、地道に支持回復を図るという気概はないのか。
今日だけではない。過去の自民党を振り返ってみても、この繰り返しだった。
リクルート事件で退陣した竹下登内閣の場合がそうだったし、古くは、ロッキード事件の処理をめぐって党内の反発をかった三木武夫内閣も、同様だった。挙党体制を誇った竹下内閣はスキャンダルを機に党内から一気に見限られて総辞職、三木内閣は党内が分裂した状態で総選挙に追い込まれて惨敗、三木首相は退陣した。
岸田首相は、「総裁選で〝新生自民党〟を示すことが必要だ」(退陣の記者会見)と力説した。派閥主導の総裁選が続けば、首相の退陣は〝徒死〟に終わってしまう。
耳のタコができるような名前ではなく、真の有望な新人候補が彗星のごとく現れ、国民の前で堂々と政策論争を展開して選ばれるような総裁選を期待したいが……。