2024年9月2日(月)

食の「危険」情報の真実

2024年9月2日

ハチと農薬

 農薬によるミツバチの被害はいまだ絶えないといったイメージがあるかもしれないが、農林水産省によるとここ数年の被害件数は減少傾向にある(表2)。その裏には、農薬工業会と日本養蜂協会という一見対立団体同士が共同対策事業を行うなど協力して活動していることにある。10年にわたってミツバチのネオニコチノイド系殺虫剤による被害究明や対策について農研機構や大学、農薬会社らが試験調査事業を行ってきた成果ともいえる。

 ネオニコチノイド系殺虫剤は高温多湿な日本での稲作で発生する斑点米カメムシへの防除対策には欠かせない。農薬の技術開発に長年携わり、ミツバチの保護への研究も進める三井化学クロップ&ライフソリューションの江尻勝也氏は「ミツバチ被害が出た当初は水田内での被爆やイネ花粉経由での影響と考えられてきたが、調査研究によって主に畦畔雑草にラジコンヘリで飛散した薬剤がミツバチの体に付着し、巣箱内が汚染されて大量死が起こっていることが分かった」と解説する。

 ネオニコチノイドは今までの防除剤の有機リン剤や合成ピレスロイド剤と異なり即効性でなく死亡まで数時間~半日ほどかかる。その〝潜伏期間〟に巣箱内で仲間のハチ達へ被害を広げたという。

 多くの大規模養蜂家が夏を過ごす北海道の場合、斑点米カメムシ防除のためのラジコンヘリコプターによる散布は3~4回行われる。ラジコンヘリコプターを使うと水田外の畦畔にも農薬が飛散し、ミツバチの体に付着する可能性が出てくる。

 しかし、北海道の稲作における斑点米カメムシ防除はネオニコチノイド系殺虫剤が有効な手段である。北海道では、①カメムシの発生源でもある牧草地が広大に広がっていること、②畔が高く畦畔雑草の管理が不十分であること、③道内主要水稲品種が斑点米カメムシの被害に遭いやすい、といったことからだ。

 ミツバチへ被害を減らすためには、ミツバチに薬剤が付着しない粒剤の方がよいのだが、ラジコンヘリコプターによる散布の方が低コストである。カメムシによって生じる斑点米の除去も色彩選別機によって可能だが、大規模経営ではその時間的余裕がない。

 江尻氏は様々な対策があるとしているが、そこへの課題も多い。

 まず、JAからラジコンヘリコプター農薬散布日を知らせてもらい、養蜂家は水田近くに蜂場を設置しないようにする。ただ、大量の巣箱の移動やネットをかけてミツバチが出られなくすることは難しい。


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