山田さんは「これは他の農家の圃場でも当てはまるかもしれない」と考え、JA全体で取り組むことになった。具体的には、生育状況から逆算した土壌の肥沃度によって、圃場ごとに施肥のやり方を変えるように生産者に指示するなど、データに基づいた科学的な指導である。
JA北新潟の旧JAにいがた岩船管内では、地域一帯の圃場データをザルビオに登録し、営農指導に活用している。これによって、個別の農家を点としてとらえるのではなく、地域全体で栽培状況の差異の「見える化」を可能にした。
「このシステムは新人の営農指導員が網羅的に個々の栽培技術の違いを理解できる。今までよりも稲作の栽培技術を短期間で学ぶのにも役立っており、若手営農指導員の育成のツールにもなっている。今まで5年かかっていた技術習得が2~3年で可能になる」と山田さんは話す。
施肥・追肥を行うために、ザルビオに連動する農機の実証も進めている。スマートフォンやパソコンを持っていない高齢者に対しては、JAが一括購入したザルビオを営農指導員と共に使用し、栽培をサポートしている。地域として生産者を一人も取り残さないとの取り組みだ。
このようにJA北新潟では、ザルビオを旧JAにいがた岩船管内の地域全体で一括導入し、営農指導に活用することで、地域全体の米の品質と収穫量を向上させることを目指している。農家の経営向上と営農指導員の育成を同時並行で行う、いわば地域農業全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)の先進事例である。
これを推進しているのが、山田さんはじめ、意欲的な若手営農指導員たちだ。山田さんによると収量増や品質向上などの結果はでているようだ。ただし、課題は導入コストで、「費用対効果を明確に算出することが難しく、補助事業などを利用しないとJA経営の負担になる」そうだ。
このようなJA全体でのザルビオ活用は、三重県でも行われており、24年1月に筆者がJICA研修員とJAみえきたを訪問した際、若手営農指導員がJAの営農指導での利用方法を分かりやすく説明してくれた。研修員からは、「JAが先頭に立ってDXを推進している」と高評価だった。
オールラウンドプレーヤーばかりではない
これらの先進的な取り組みは、全国有数の産地のJAで、リーダー的なJA職員により進められている。日本のJAにはこうしたすぐれた職員が多くいる一方で、いくつかの課題もあると感じている。
農業生産自体が縮小するなかで、組織を維持しようとするJAが出てきている。これは、「農家を支援する」というJA本来の目的が薄れてしまう懸念がある。事実、組織維持が目的化しているJAもあるようだ。
農業が盛んとは言えない都市部などのJA管内では、農家からJA職員が営農指導に熱心でないとの声も聴かれる。収益確保が必要なため、金融や共済などの活動に経営を頼るのは自然な流れだが、それが批判の対象になっている。