これら亡命者は一層特殊な方法を取っている。8月初めには北朝鮮人が干潮時に海上境界線を徒歩で越え韓国領の島に到着。昨年は北朝鮮人グループが木製ボートで海上境界線を越え、キューバ駐在の外交官が韓国へ逃亡。北朝鮮人は従来仲介人を使い中国国境から亡命していたが、コロナ時代に壁や監視所の新設で監視が強化。人権団体によれば、中国は昨年数百人の北朝鮮亡命者を本国に送還した。
金正恩は1月に韓国を最大の敵と呼び、韓国製コンテンツを根絶し、連絡ルートを閉鎖しようとしている。韓国の金暎浩統一部長官によれば、北朝鮮の南北政策変更は国内の不満を韓国に向けるためだ。金長官は6月に議会で、北朝鮮国民の政権不信は高まっていると報告した。
尹錫悦韓国大統領は最近、北朝鮮国内の変化促進を目的に統一新ビジョンを発表。対話の呼びかけと同時に、より多くの情報を北朝鮮に流入させる決意を表明した。
北朝鮮は未反応だ。北朝鮮国民の外部情報へのアクセス拡大という尹大統領の政策は、米国が長年独裁体制崩壊のために推進してきた民主主義的価値観の浸透政策と緊密に連携している。しかし、米国は金政権の不安定化を金政権にある種の正統性を与える対話の機会と見ているかもしれないが、現状では北朝鮮は露中に頼るだろう。
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韓国が路線を変更した背景
最近の韓国の対北朝鮮政策は、抑止を最大限強化しつつ、外部情報に北朝鮮を晒し、北の体制弱体化、究極的には「崩壊」を目指す方向に明確に舵を切ったように見えるし、有識者にもそのような認識を持つ人がいる。北が韓国を敵とし統一を放棄し韓国文化の流入に神経質なのは、その反動かもしれない。
その背景には、第一に、現状を大きく変えることが困難になっているという現実的認識、すなわち、北朝鮮の核・ミサイル能力がもはや「核の無い北朝鮮」の実現が現実的目標とは言えないまでに強化される一方、中国以外にもロシアが庇護者として台頭していること。第二に、ウクライナ戦争で金正恩が核兵器を放棄した国の末路を改めて認識し、核兵器を放棄しないとの意思を益々強化したと思われること。第三に、上記の記事が言うように、北朝鮮内部で現体制に対する不満が顕在化しつつあるとみられること、があるのだろう。
もちろん、金体制がすぐに崩壊する兆候がある訳では無く、軍を含む特権階級の不満が、特権の源泉でもある金体制の崩壊を目指すエネルギーに転嫁するかは疑わしい。1994年の核合意以来、過去の「北朝鮮の崩壊」予想は、常に間違ってきたこと、逆に、北朝鮮の体制は、核能力取得、ミサイル技術高度化など、益々強化されていることから考えれば、今回の韓国の政策転換が北朝鮮の崩壊まで至るかどうかは、慎重に見定める必要があろう。