2024年10月2日(水)

Wedge REPORT

2024年10月2日

売却対象になった
日本企業の物流子会社

 企業にとって物流は、自社の付加価値を生み出すバリューチェーンの重要な構成要素である。同時に、運賃などの費用負担が生じる「コストセンター」として、負の側面もある。企業経営では物流が併せ持つ両方の側面を踏まえ、バランスを取ったかじ取りが必要なのは言うまでもないが、実態として日本企業には物流が生み出す付加価値への関心は薄い。コストセンターとしての負の側面ばかりが強調され、コストカットの対象にされがちである。

 そのような日本企業の傾向を反映しているのが、物流部門を対象とした度重なるリストラである。

 企業内の組織再編は外部には公表されないことが多いが、特に製造業は物流部門を子会社化している企業が多い。そのため、物流子会社の変遷を整理して見ると、企業が苦境に陥った際に物流部門を切り捨ててきた経緯が浮かび上がる。

 電機業界を例に挙げると、かつて総合電機のほぼ全社が物流子会社を保有していたが、2010年代の円高不況などを機に売却などが相次ぎ、物流子会社を保有する企業は少数派になってしまった。

 中には前向きな事業再編を意図した、ある意味では真っ当な売却もあるが、目立つのは人員整理や不動産のオフバランス化といった不良債権処理を目的としたケースである。

 それでも、物流子会社の多くは現在でもかつての親会社の物流を担い続けている。企業活動が存続する以上、在庫保管業務、輸出入関連業務など親会社の物流関連業務がなくなるわけではないため、業務実態には大きな変化はないのである。

 では、なぜ、売却するのか。それは、物流は「コア業務ではない」との認識が根強いからである。問題は「コアかどうか」という認識が、物流部門の立場の弱さといった「企業内の力関係」を反映して歪んでいるという点である。

 日本企業が物流を軽視しているもう一つの証拠は、物流担当の役員(取締役や執行役員)がほとんどいないという事実である。

 製造業や流通業では、物流は企業の付加価値を生む主要な要素の一つである。したがって、その管理には相応の権限を有する役職者が当たるのが当然である。実際、大手製造業を見ると、各社が「コア機能」だと考える製造や営業の担当役員を置いていない企業は極めてまれである一方、物流担当の役員を置くケースは少ない。上場企業を対象にざっくりとカウントしてみても、せいぜい数%にとどまる。

 これに対し欧米企業は様相が異なる。かつてはロジスティクス担当役員を意味するCLO(Chief Logistics Officer)を置く企業が多かったが、近年では、サプライチェーン担当を意味するCSCO(Chief Supply Chain Officer)という役職に置き換わっている。名称はともかく、これらを置く企業の割合は非常に高いことが知られており、筆者が調査したところによれば、英・ユニリーバや米・ナイキなど、消費財メーカーのグローバルトップ30社のうち43%がCSCOを任命している。フォーチュン500企業を対象に調査すると、68%の企業がCSCOを設置していたという調査データもある。

 日本企業内に物流担当の役員がいないことは、言い換えれば、物流部門の昇進コースのゴールは、課長・部長止まりだということである。これでは物流部門に優秀な人材が集まるとは考えにくい。


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