翻って、欧米系のグローバル企業では、物流のキャリアを持つ著名経営者が珍しくない。中でも有名なのはアップル社のティム・クック最高経営責任者(CEO)であり、同氏はアップル以前に在籍していたIBM時代から、在庫管理を中心としたサプライチェーンマネジメント(SCM)分野でキャリアを重ねたことで知られている。
このような例は枚挙にいとまがなく、物流・SCMはCEOに至る主要コースの一つだと言ってもよい。マサチューセッツ工科大学、ウィーン経済大学など、欧米の主要大学のMBAコースを調べると、物流・SCM専攻の多さが(特に日本と比べて)際立っているのだが、その背景には、物流・SCMがマネジメント層に至る主要なキャリアパスになっているという事実があるのである。
部分最適ではなく
全体最適を考える
このように見てくると、日本企業における物流軽視の問題は、相当に根深い問題だと考えざるを得ない。前述のとおり旧日本軍における兵站軽視と通底する問題であるなら(実際、そう考えるべきだが)、すでに戦後80年近く経過してもなお、解決できないほど日本社会に染みついた根深い問題だとも思える。
ただし、解決できなかったのは、物流の技術や能力面に問題があったためではない。個々の物流サービスの水準や技術面では、日本が諸外国に遅れていると考える業界関係者はまずいない。
問題解決のボトルネックは、問題点がきちんと共有されなかったことであり、そのため、解決の必要性が認識されず、結果的に課題が温存されてしまったに過ぎない。
前述のとおりグローバル企業の多くが役員としてCSCOを置くのは、CSCOが物流・SCMの課題解決に取り組むことで、企業価値が向上するからである。このような極めて当たり前の意識がステークホルダー同士で共有されているから、各社ともCSCOを設置するのである。一方で、日本企業に物流担当役員が少ないという事実は、物流課題解決が必要だという認識の薄さを反映しているとも言えるだろう。
現在は部分最適にとどまる物流を真の全体最適へと進化させなければ、物流危機の解決は難しい。そのためには、企業内に物流のプロを配置し、しかるべき評価・処遇を行うことが必要である。それがひいては企業価値向上にもつながるはずだ。
このような常識的な前提を共有することが、「物流軽視」の問題を解決するための第一歩だと言えるのではないか。