2024年10月6日(日)

Wedge REPORT

2024年9月27日

 「尾根にマツ、中ほどヒノキ、沢にスギ」

 これさえ覚えれば造林学は卒業だ、と教授が豪語した適地適木の格言である。乾燥した尾根にはアカマツ、湿潤な沢にはスギ、その中間にはヒノキが適していることを示している。

写真 1 適地適木(筆者提供、以下同)

 東北などの多雪地帯はヒノキには適していないが、それ以外の地域ではほぼ当てはまる。そして、明治の末から大正期にかけて国有林の大造林が行われ、昭和30年代から始まる国有林の大増産の原資となった人工林は、ほぼ格言どおりの姿だった。それを国有林では成功ととらえて、大皆伐大造林の道を邁進することになる。

 もっとも失敗事例は残っておらず、生き残った成功事例だけを見て、明治・大正の大造林が成功だったとは言い切れないという説もある。また、少ないながらもケヤキ(銘木)、クスノキ(製油)、イチイガシ(櫓、櫂)などの特用樹も造林されており、当時の造林にはまだ多様性が見られた。

 また、成功事例であってもモザイク状に出現する岩石地や崖地、崩壊跡地、尾根筋には天然木が見られ、さらに林内にもスギ・ヒノキに混じって広葉樹が生育しており、それなりに多様性は保存されていたのである。まあ自然の中なので当然のことなのだが、こういう多様性を消し去って、田んぼの稲と同じく、人工林をピュアーなものとイメージしたのでは、机上論議になってしまう。

 造林を単純な格言で説明した教授のおかげでろくな学生は育たなかった。現在の森林・林業の衰退は、このような型にはまって硬直化した林学に起源するのだろう。これから造林を語るわけだが、どうかフレキシブルな感覚をもってお聞き願いたい。

欠かせない現場本位の造林樹種の選定

 さはさりながら、格言どおりスギ、ヒノキ、アカマツが適した地方での事例で説明しよう。

 植栽地は、皆伐跡地である。まず、皆伐する前に伐採地の立木材積を調べる収穫調査を行うのだが、このとき植栽計画も立てる。樹種ごとの成長具合を見定めて、図面に樹種区分を投影する。これによって、樹種ごとの数量を割り出し、苗畑に発注するのだ。

 ところが、現場の希望通りに苗木が来るわけではない。昭和30年代は木材増産が叫ばれていたため、林野庁は材積成長のよいスギを増産するように指示を出していた。当時スギとヒノキの価格差はわずかだったので、机上ではそれでよかったのだろう。


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