2024年10月6日(日)

Wedge REPORT

2024年9月27日

 1977(昭和52)年の冬、森林官だった筆者は頭領(技術指導員)と2人で15年生を過ぎた造林地を眺めていた。場所は、現在の高知県四万十市である。スギは常緑樹だが、冬には葉が赤みを帯びる。頭領が指差した方のスギはどす黒い赤だった。

 「あんスギは適地を間違えちゅう。ヒノキやったらあんなことにはならんけんのう」

 確かに谷筋のスギは樹高も高くとんがっているのに、適地を間違え尾根筋で赤くなっているスギたちの樹高は低く、樹冠(樹木の枝葉が集まった部分)が小さく丸まって、隣接木と隙間がある。一目で成長が悪いとわかった。

 「スギは成長がよかけん、希望もしとらんのに苗畑から大量に送られてきたけんのう」

 頭領は悔しそうにつぶやいた。筆者は入庁2年目にして、早くも現場と本庁の技術レベルの乖離に直面した。しかし、今さら改植するわけにもいかず、少なくともあと30年余り、このままおくしかない。適地の誤りが将来に禍根を残すわけだが、このようなことが全国の国有林で行われているのだから、その損害は膨大である。

植え付けまでの準備作業

 造林というとすぐに苗木の植え付けを思い浮かべるが、それまでの準備作業が欠かせない。四国の場合、雪のない場所では2~3月が植え付けなので、晩秋から初冬にかけて準備作業に入る。

 まず作業用の歩道づくりだ。伐採跡地は平均30度を超える斜面、しかも散らばった末木枝条(すえきしじょう、梢や枝)や残材だらけで、立っているだけで辛い。歩道は朝夕の安全な移動や苗木の運搬に不可欠なだけでなく、スギ・ヒノキの適地の判定に役立つ。

 積る末木枝条をかき分けて、林地の表土を削って、ジグザグに鍬で歩道を切り開く。そのとき黒く湿った土壌が現れたならスギ、赤茶色で少し乾いた土壌ならヒノキの適地である。その色の変わり目をつなげば、スギ・ヒノキの植え境となる。前生樹の切り株の大きさや年輪からも適地は判定できる。

 歩道ができたら、地拵(じこしらえ)だ。伐採跡地には前生樹の末木枝条や残材などが散らばっているので、これらを等高線状に積み上げて整理する。これを筋置きと呼び、できたものが置筋である(写真2)。造林とは概して過酷な労働ではあるが、その甲斐あって自然と人間が織りなす壮大で美しいアートになっている。

写真 2 等高線状の地拵。歩道も見える

 置筋と置筋の間の整理された地表に苗木を植えていく。置筋は、そのうち腐って林地の栄養分となり地力の維持に役立つほか、降雨時の土砂の流出防止にも効果がある。

 ところで造林作業はほとんど人力であり、地拵には特に労力がいる。そのため無地拵なども実験されたが、その後の作業である植え付けや下刈の能率が落ち、トータルで省力化にならなかった。

 最近は、バイオマス発電用に末木枝条や残材などを全部持ち出すこともあり、造林作業の能率は向上するだろう。しかし、乾燥、降雨、動物の食害からの苗木の保護、土砂流出防止、地力の確保など長い目で見れば、林地からすべてのバイオマスを収奪してしまうのは問題が多い。

 末木枝条や残材の量は、広葉樹の割合が多い天然林跡地の方が人工林跡地より圧倒的に多い。すなわち拡大造林の方が作業能率は悪い。また、伐採の事業形態によっても違う。

 残材が少ないのは立木販売個所、次が請負生産個所、最悪が直庸作業員による直庸生産個所だった。そして直庸の造林班は残材の少ない個所を割り当て、最悪の直庸生産個所には請負の造林事業体が入った。少しでも直庸の能率を上げようという姑息なやり方だった。


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