2024年10月6日(日)

Wedge REPORT

2024年9月27日

苗木の調達

 伐採量の拡大は即造林量の拡大である。苗木の需要量が増大すると苗畑も大規模化して、機械化され、作業効率を重視するようになった。

 本来なら植栽地に近い場所に苗畑があった方が、その地域の種子から環境に順応した苗木の生産ができ、地域ごとにバリエーション富んだ人工林が造成できたと思われる。そして、それが地域の自然特性に依拠した林業の本来の姿だったと考える。地元産のスギの苗木なら、花粉の発生量は現在の40%に減らせたと花粉の研究者が言ったのを思い出す。

 しかし、時代の趨勢は大規模化、効率化、商業主義化であって、苗畑の大規模化・効率化に異論を唱える者はいなかった。高知県特産のブランドは魚梁瀬スギであった。県東部の馬路村周辺の国有林に産する天然スギで、木目の美しさから高級建築材として引っ張りダコだった。そこで高知営林局は植栽するスギのほとんどを魚梁瀬スギにしてしまった。

写真 3 天然魚梁瀬スギ

 魚梁瀬は、沖を流れる黒潮から湧き立つ上昇気流によって年中雨が多い。屋久島をはじめ天然スギの産地に共通の気象である。ところが同じ高知県でも西南部の四万十地方は、乾燥気味で良質なヒノキの産地である。そこでも、もちろん沢筋にはスギを植えるのだが、魚梁瀬スギではミスキャストで心材が黒くなる。

 これを黒心(くろじん)と呼ぶが、スギは赤心が喜ばれる。地元産の赤心のものなら吉野杉に化けるというぐらい高品質だったのに、わざわざ魚梁瀬スギを植えてダメにしてしまった。このような短絡的な考えが、長期間を要する造林にとって致命傷となる。

 また、海岸沿いの暖地の苗畑の苗木を、2~3カ月後には氷点下になる山間部で植えるのだから、順応できず枯死するものが多かった。やはりできるだけ植栽地の近くで育てた苗木を植えたいものである。

 苗畑から山元までは、苗畑で掘り取った苗木を束にして菰(こも)に巻いて運搬する。山元近くの畑で菰を外して、畝(うね)に斜めに立てかけて根っこに土をかぶせて一時的に保存する。これを仮植と言う。毎日植える分だけ掘り取って、山へもっていくのだ。

 スギの苗木は、水仮植(みずがしょく)と言って根を沢水につけておく方法もあった。しかし、雨が降って沢の水量が増すと、流されてしまう危険があった。

写真 4 CTM箱

 CTM箱(写真4)というのもあった。この段ボール箱は内側に薬品が塗布されており、土を振るい落とした裸根の苗木を入れて密閉すると、苗木の呼吸作用と蒸散作用が抑制されて、長期間保存できるという優れモノである。

 これならば仮植は必要なく、造林小屋や倉庫に積み上げたり、山元で積み上げてビニールシートで覆っておくだけで保存可能であった。ただし、穴を開けたり、濡れたりすると、ガスが抜けて苗木が枯れてしまう。

 こうして、いよいよ植え付けが始まる。造林の準備作業の段階で、これだけ山の地形や環境に配慮しなければならない。同じ自然を相手にするというものでも、農業とは大きな違いである。ここで間違えたら、数十年間を棒に振る。

 造林事業は、こうした山の変化に富んだ環境と苗木の特性を熟知して行う結構繊細な作業なのである。現場を知らない上局が、勝手に成長のよい樹種を選定しても、かえって成長を損なったり、品質を落としたりしてしまう。さらに時間の損失こそ取り返しのつかないものでることを肝に銘じるべきである。

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