2024年11月21日(木)

新しい〝付加価値〟最前線

2024年10月23日

海外販売のカギは「ローカライズ」

 国内での知名度が上がる様になると海外進出する。当たり前だ。元々、海外に拠点があったヤーマンに躊躇はなかったろうと思われる。だが、だから売れるというのは、別の話。戸田氏に伺うと「ローカライズ」でしょうと言う話だった。

 ヤーマンの美容家電の海外進出は、2012年の香港が最初なので、ここ10年くらいの話。どの国もそれなりにグローバル化されているはずだが、輸出に不可欠なのは、ローカライズ。その地域に合わせることだと、輸出担当者は口を揃えて言う。

 特に中国で店を持ち販売するのは、かなり大変と聞く。文化・風俗の違いもあるが、中国は共産主義という、日本とは全く異なる政治体制。これがもたらす影響も小さくない。

 ヤーマンは美容家電の専門メーカーであり、実績もある。加えて、品質に定評のある日本ブランド。また観光客の口コミでブランド名も浸透し始めている。

 では、ヤーマンのローカライズとは何かと聞くと、「現地の皮膚科医、大学と連携」だと言う。日本では美容家電は医療に使われないと言うことで、医療との連携は進んでいないが、台湾の様に美容=医療とする国もある。このようなところに、輸出するだけでは、「お医者さんのお墨付きがないとね」となる。日本と事情が異なるわけだ。

 こうした施策により、2015年にオープンしたECコマース「T-mall」は、2017年の美容家電の売り上げ第1位を獲得。2022年まで6年連続の第1位(2023年は第2位)。中国の知り合いに言わせると「すごく憧れるブランド」だそうだ。

 また、海外でも重要なのはフットワークの軽さ。そのエリアに合った仕様変更をお願いされるが、いかに早く対処するかで、そのエリアに対する本気度が感じてもらえる。

認識を変え、より高いステージへ

 このように、成功を積み重ねてきたヤーマン。が、彼らの想定には、まだ到達していない。それは、9月に行われた複合エネルギーとなる「熱電気刺激」を使用し、しわ、たるみに効果を発揮する新技術「CERTEC®」 (Cell Energy Regeneration Technology。サーテック)の発表会の時に、窺い知れた。

 東大と共同で学術論文を発表。ヤーマンはより積極的に「医療との連携」をはかり始めたのだ。日本で、医療と製品の話で真っ先にでてくるのは、「薬機法」(昔は薬事法)の話だろう。

 これは医療に使われる設備、機器、器具、薬に適用される。日本では家庭用美容家電は、医療で使われることはないため、薬機法の認定は対象になってはいない。

 薬機法対象品は、全く別の扱いになる。まず「認定」されなければならない。認定をとることになれば、最低でも半年はかかる上、認定はモデル毎行う。小修正する場合でも、認定を取り直すことが必要となる。つまり短納期で、新しいモデルを市場投入できなくなる。

 色の変更をして見た目のみ新しくしたものでも、認定を取りなおす必要がある。1年周期の商品化は、ほぼできない。医療用機器は、人の生き死に関わるための措置だ。

 民生用家電メーカーとしては、薬機法にはなるべく関わりたくないと言うのが本音だ。

 加えて、メーカーホームページにある効果を示すグラフは、分かってもらうために、数字を丸めたりしてあり、どこまで凄いのかわからないモノもある。

 このようなデーターでは学術論文は通らない。正確なデーターで、そのデーター結果に対する考察が要求される。また臨床実験などは、追試できることも必要だ。医療、理工系の論文は、本当にお金も、時間も、人手もかかる。

 しかし学会誌に掲載されるということは、どこの国でも使えるエビデンスがあるということ。CERTEC® は、アメリカの学会誌「Journal of Cosmetic Dermatology | Wiley」で公開されたが、その内容は、アメリカ、日本、欧州はもちろん、中国、台湾、南米、アジア、豪州、全世界でエビデンスとして通用する。

 海外進出のところで、「医療との連携」と書いたが、商品だと有名な先生が、そのモデルに対し「いいね」を出す感じなのに対し、こちらは技術で、よりかっちりした話となる。

 ちなみに、CERTEC ®の論文名は「Neuromuscular electrical stimulation for facial wrinkles and sagging: The 8-week prospective, split-face, controlled trial in Asians」。執筆者には、ヤーマンと共同研究を進める国立大学法人東京大学大学院医学系研究科皮膚科学の面々の名が見える。

 また、ヤーマンは、社内開発部門を再編成し、「表情筋研究所」を設立。ここでは、美容技術を進化させる上で必要な皮膚科学とお得意の電子工学を使い、表情筋へのアプローチを進めている。

 このように、学術的なエビデンスを積み上げながら進めるのは、美容家電にとって新しい試み。こうなるはずという曖昧さが許されない、非常に厳しい技術確立になることが予想される。

ヤーマンがすごい理由

 インタビュー、製品発表会などを通して、一番印象的だったのは、実は技術ではない。「すばやく」「新しい」もので挑む姿勢だ。

 彼らが目指す「リバースエイジング」(若さを取り戻す)技術は、代謝が悪くなった細胞の活性化。会社、社会もそれと同じで、同じ状態が続くと老化的な状態となる。常に全力で、新しいことをしているヤーマン自体、自分をリバースエイジングしている感じがする。

 また論文を出すまで行くと、その先はと思われる人もいるかも知れない。が、美容家電の様に「その人に合った」という意味では、一部商品化されているものの、「AI」技術の積極活用が残っており、まだまだ進化の余地がある。

 ヤーマンはまだ成長期なのだ。

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