Ⅹのオーナーであるイーロン・マスクが、暴動に際して「(イギリスで)内戦は避けられない」と扇動する投稿を行ったのは、こうした思想的背景に由来すると考えられる。戦いは避けられないというよりは、極右勢力が「エックスデー」の引き金となる扇動的な事件を探し求め、戦いを引き起こそうと目論んでいるという方が実態に近いだろう、とオープン・デモクラシーの論考では批判されている。
イギリスの白人男性がモスクを破壊し、「殺せ」と叫びながらアジア人男性を車から引きずり出したり、白人ギャングが南半球のさまざまな国の家族が暮らすホテルに放火したりするのは、単なる破壊衝動によるものではない。彼らが夢想している非白人の大量虐殺の最中にとるであろう行動を、予行演習しているのだと考えられる。
「子供を守る」という正義感につけこむ陰謀論
この「グレート・リプレイスメント」陰謀論は、子供たちが移民により危険にさらされているという不安や、親の権威が移民という外部の敵対的な「他者」によって簒奪されているという不安を掻き立てることによって、子供たちへの脅威という二次的な陰謀によって補完される構造となっている。
暴動に参加した人々は、「私たちの子供たちを救え」と書かれた看板を持っていることが多い。同じスローガンは、反ワクチンデモや反LGBTQデモでも見られる。子供たちが危機にあるというこうした主張は、ディープ・ステートが、若返りの秘薬である「アドレノクロム」を採取するために子供たちの人身売買を行っており、悪魔の儀式で子供たちを拷問している、というQアノンの陰謀論とも類似性がある。
こうした陰謀論の共通要素からも、サウスポートの事件で流布されたディスインフォメーションがロシアの既存の影響力工作と親和性があることが窺えるだろう。
なお、この暴動を受けてイギリスでは、2023年に成立したオンライン安全法を見直し、サイバー空間でのディスインフォメーションやヘイトスピーチの規制を強めようとする動きがある。この暴動にロシアの関与を指摘したマクパートランド元安全保障相も、外国からの影響力工作やディスインフォメーションの流布に対抗するためには、通常のサイバー攻撃も含めた一体的なサイバーレジリエンス(抗堪性)の向上が必要であると述べている。
日本では、サイバー安全保障と情報戦・認知戦対策が現段階では分散しつつある傾向にあるが、情報戦・認知戦の対抗のために、アメリカやイギリスの総合的なサイバー安全保障政策を参考にできる部分もあるだろう。