2024年5月9日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年11月20日

 10月13日付けウォールストリート・ジャーナル紙が、英王立学会のドミニク・グリーン特別研究員による‘Middle East War Becomes a European Crisis’(中東の戦争が欧州の危機を生んでいる)と題する論説を掲載している。主要点は次の通り。

2023年11月11日、イギリス・ロンドンにてガザのパレスチナ人と連帯して抗議するデモ参加者たち(ロイター/アフロ)

 中東の戦争は米国では外交政策の危機を生んでいるが、欧州では国内的な危機(反イスラエル・デモの頻発)を生んでいる。これは、数十年に及ぶ移民管理の失敗、多文化主義の限界に対する認識不足の生み出した悪しき結果である。

 こうした行動をとったのは、白人ナショナリストでもなければ、環境終末論者でもなく、欧州で急速に人口を拡大しつつあるイスラム教徒である。

 欧州各国の政府はリベラリズムに立脚し、三つの方策をとってきた。イスラム原理主義を治安上の問題と捉える、イスラム教徒の集団を地域社会へ統合することで原理主義の力を低減する、そして、人々がイスラム教徒の存在について懸念を持つことを「イスラム教嫌い」とレッテルを貼って押さえつけることである。これらの方策は、結局は失敗に終わった。

 移民(その多くは不法移民)は増え続けてイスラム原理主義者の温床となった。その中から残虐なテロを行う者が出てきた。

 西欧ではイスラエル・パレスチナ問題は多くの人にとっての個人的な関心事項ではない。5月の世論調査において、この紛争に「大して関心がない」「全く関心がない」と答えた者の合計はドイツでは73%、英国では56%、フランスでは47%であった。一方、彼らは移民、テロリズム、法と秩序、移民が福祉・住居・学校・病院へもたらす影響に強い懸念を持っている。

 この30年の間、欧州において反移民のナショナリスト政党への支持が拡大している。これは民主主義の表れであるが、欧州の体制派はファシズムの再来と呼んでいる。

 欧州各国の政府は、これを抑えるため、言論の自由についての法制を更に制限することはできるが、国境管理に失敗し、移民の同化に失敗してきたことが社会的に、また、選挙において明確に示されることを避けることはできない。

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 この論説の狙いは、イスラエルとハマスの衝突をきっかけに欧州で反イスラエル・デモが頻発している背景に、多数のイスラム教徒が欧州に存在していることを指摘し、欧州の移民政策や多文化主義を批判しようとする点にある。欧州での反イスラエル・デモの頻発から読み取るべきことは、論説の指摘のみならず、いくつもある。


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