2025年5月15日(木)

トランプ2.0

2025年1月26日

民主主義の後退を招く大統領令

 2021年1月6日、トランプ支持者は20年米大統領選挙における選挙人確定の作業を阻止しようと米連邦議会議事堂に突入し、警官と衝突した。その結果、約140人の警官が負傷し死者も出るという大惨事に至った。

 トランプは就任式の当日、ホワイトハウスの執務室で記者団を前に、襲撃事件で有罪になった約1600人に恩赦を行う大統領令に署名した。その中には、極右団体プラウドボーイズの元指導者で、禁固刑22年のエンリケ・タリオ服役囚や、もう一つの極右団体オースキーパーズの創設者で、禁固刑18年のスチュワート・ローズ服役囚が含まれている。

 トランプのこの大統領令は、少なくとも4つの意味を持つ。

 第1に、民主主義の後退を招く大統領令である。2021年1月6日、トランプ第1次政権のマイク・ペンス副大統領(当時)による前年11月の大統領選挙における選挙人数の確定は、明らかに民主的なプロセスの一環である。それが行われることにより、民主主義が形を成して結実していく。

 トランプは自らの手を汚すことなく支持者を煽って、選挙結果を踏みにじろうとした。

 この大統領令の署名によって、極右団体やトランプ支持者は、トランプの意向に沿っていれば、政治的暴力を行使しても、トランプから恩赦が得られると確信を持ったであろう。今後も、政治的暴力により民主主義のプロセスを阻止する行動に出て失敗し、その結果、有罪判決を受けても、最終的にトランプが救ってくれると“当てにする”ことができるのだ。

 第2に、米社会の分断をさらに深める大統領令である。米公共ラジオ、公共放送およびマリスト大学(東部ニューヨーク州)の全国共同世論調査(2025年1月7~9日実施)では、米連邦議会議事堂襲撃事件で有罪になった参加者に対する恩赦について、全体(登録した有権者)で36%が「賛成」、61%が「反対」と回答したが、2024年米大統領選挙でトランプを支持した支持者は、68%が「賛成」、27%が「反対」と答えた。全体で約6割が反対であるのに対して、トランプ支持者は約7割が恩赦に賛成しているのだ。

 さらに、同共同世論調査では、米連邦議会議事堂襲撃事件を、全体で59%が「公正な選挙結果を覆すための暴動」とみているのに対して、トランプ支持者は66%が「盗まれた選挙を阻止するための愛国者による抗議」と捉えている。ここでも、米国民全体とトランプ支持者の間には深い溝が存在することを示しており、さらにこの大統領令により分断が深刻化してくだろう。

 第3に、言うまでもないが、トランプ支持者に襲われ命を落とした警官や負傷を負った警官に敬意を払っていない大統領令である。トランプは16年、20年、24年の米大統領選挙において「自分は警官の味方」というメッセージを発信してきた。この選挙キャンペーンと警官を攻撃した暴徒に恩赦を与えた大統領令は矛盾していると言える。

 第4に、歴史の書き換えを狙った大統領令である。トランプが大統領就任式を暴動が起きた米連邦議会議事堂で行った本当の理由は、寒さではなく、議事堂襲撃に参加した支持者の行動を正当化し、歴史を書き換えることにあったとみることができる。

 真実をオブラートで包み、最終的に議事堂襲撃事件に関する米国民の記憶を弱める狙いがあったのだろう。服役囚を「愛国者」および「人質」と呼んだトランプは、議事堂内での就任式と彼らに対する恩赦を、歴史を書き換える道具として使用したのだ。


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