また森林を減らすことは、地球環境問題に逆行する。気候変動を抑えるため温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにするというカーボンニュートラルに加え、食料生産や疫病予防に重要視されている生物多様性を増やすネイチャー・ポジティブにも反してしまう。森林の大規模伐採は、いずれの国際公約も達成できなくするだろう。
伐った跡地に再造林をしっかりすればいい、そこには無花粉スギの苗を植えよう……という施策も行われている。だが、これも机上の空論だ。
昨今の再造林率は3割程度しかない。植えている面積は年間3万~4万ヘクタール程度だが、その半分ぐらいに無花粉や少花粉スギ苗を植えているという。このペースだとすべて植え替えるには300年から400年はかかる。さらに昨今はシカを初めとする獣害が多発しており、植えた苗が全滅してしまうケースが多発している。
それに植林後5年程度まで下草刈りや雑木や成長不良の稚樹を伐る徐間伐の作業が必要だが、人手がまったく足りない。また伐った木の使い道もあまりないため市場でだぶつき気味で、木材価格を下落させる。それらが伐採意欲、再造林意欲を減退させている。
このような林業事情を知れば、伐採で花粉発生源を減らす困難さがわかるだろう。
なぜ、世界で花粉症が増えているのか
そもそもスギを伐採したら花粉症はなくなるのだろうか。
すでに紹介したとおり、花粉症は日本だけではなく、世界中にある。それどころか年々増加しているのだ。花粉の種類も多岐にわたる。
少し古いが2016年の世界アレルギー機構の報告資料によると、13~14歳児の花粉症有病率は、世界全体で22.1%だった。地域別にみると、北米が33.3%ともっとも高い。次にアフリカが29.5%、アジア23.9%、東地中海20.1%、インド亜大陸15.8%、中南米23.7%、北欧・東欧12.3%、オセアニア39.8%、西ヨーロッパで21.2%。世界で4億人以上が花粉症なのだ。
なお日本の花粉症有病率は19年で42.5%。過去15年間で平均0.3%ずつ増加している。現在の数値は、世界中でさらに高まっていると思われる。
花粉の飛散量も増える一方だ。地球の平均気温が上昇し大気の二酸化炭素濃度が高まると、植物の生育はよくなる。それが花粉生産を活発にし、花粉飛散時期、花粉の空間分布を広めるうえ、大気中の花粉濃度も高まると考えられる。
北米60カ所の観測拠点で花粉調査した研究結果によると、約30年間で年間の花粉飛散日数は平均8日伸び、花粉の生産量も約2割増えたという。空気中に放出される花粉の個数や濃度も20.9%の増加が見られた。2100年には40%まで増える恐れがあるそうだ。花粉シーズンは最大で15日長くなると予測している。
日本でも花粉の飛散量・飛散時期は増えるだろう。そしてスギ以外の花粉症も発症する可能性が高まる。スギを減らしても、花粉症罹患者は増えるかもしれない。
花粉症を引き起こす植物は、現在確認されているだけでも60種以上になる。その中にはプラタナス、シラカバ、ケヤキなど街路樹によく植えられる木々も含まれている。さらにカモガヤやヨモギなど草本類も多い。それらの植物を全部除去するのは不可能だ。
考えるべきは、花粉症が世界中で増えた原因だろう。世界アレルギー機構の報告では、花粉症を引き起こす原因には、花粉の量のほか大気汚染、住環境、食生活による影響を指摘している。ダイエットなどの都市型生活も要因の一つと見なされている。