2025年4月16日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年3月7日

賄賂防止の国際レジームを破壊する

 2月10日、トランプは海外腐敗行為防止法(FCPA、1977年制定)の執行停止を命じる大統領令に署名した。これにより、米国の個人や企業(外国人で米国と関係する個人や企業を含む)が経済取引を獲得するために外国政府高官に賄賂を支払うことや、賄賂を提案することを禁止する同法の執行は、180日間執行停止になり(180日延長可能)、その間取締りの細則が再検討されることになった。

 贈賄の摘発等もその間停止される。トランプは、「これにより、米国にさらに多くのビジネスがもたらされる」と意義を強調し、国家安全保障のためにも必要な措置だと説明した。

 今回の法律執行停止は、無謀で、愚かな決定だといわざるを得ない。トランプは何を考えているのか、理解できない。

 問題は、三つある。第一は、そもそも大統領は、議会が承認し、正当に制定された法律の執行を一方的に停止できるのかという憲政上の問題だ。大統領令は、憲法第二条の大統領の外交権限を援用する。大統領の国家安全保障権限にも言及する。しかし、今回の決定は今後裁判所により差し止められる可能性もあるだろう。

 先般トランプが出したUSAID(米国国際開発庁)事業停止命令は、裁判所により差し止められた。トランプ2.0は予想通り米憲政のチェック・アンド・バランスに執拗な挑戦を試みている。

 第二は、トランプの不純な動機だ。不動産ビジネスで生きて来たトランプは、かつてこの法律を「ひどい法律だ」と呼んだことがある。今回の大統領令のファクトシートは、「米企業はFCPAによる過剰な取締から被害を受けてきた。国際競争の通常の行為を禁止され、不公平な競争を強いられてきた」と説明している。

 第三に、米の今回決定は米が過去40年余り推進してきた賄賂防止の国際レジームに水を掛けるものだ。米は、1976年のロッキード事件等を受けて、77年海外腐敗行為防止法を制定し、その後長い間国際社会での腐敗行為防止のため、かつ国際貿易経済の公平な競争環境確保のために世界を主導してきた。その結果、OECDで97年賄賂禁止条約が合意され、米はその規定を反映させるため、国内法を改正、今日のFCPAの枠組みが出来上がった。


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