2025年4月16日(水)

21世紀の安全保障論

2025年3月7日

 だが、90年代に入って冷戦が終結し、自衛隊は国際協力活動に派遣され、国内では阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件が発生するなど、自衛隊の役割と活動が広がる中で、橋本龍太郎首相は97年、「自衛官から直接意見を聞くことが妨げられているかのような運用がされていた」などとして、訓令の廃止を指示した。

訓令廃止後も続いた文官優位

 これで自衛官が国会答弁するようになったのかと言えば、そうではない。いまだに59年の空幕長答弁が最後のままだ。

 訓令はなくなっても、防衛省は同省設置法に基づき、軍事専門性の高い内容であっても、自衛隊に関わるすべての事項について、背広組トップの次官に加え内局の官房長らが、自衛官トップの幕僚長から意見を聞いた上で、大臣に直接助言、補佐するという文官優位の制度が設けられていたからだ。

 と同時に、国会での答弁は表現の仕方で揚げ足を取られたり、曲解されたりして政治問題化することも多く、防衛省内には、手慣れた内局の官僚が答弁する方が無難との考えが主流だった。2015年の同省改革で同法が改正され、文官と自衛官の対等化が図られたが、中谷元防衛相は当時、「制服組トップである統合幕僚長らには、自衛隊の部隊運用や部隊管理に専念させたい」との理由から、国会答弁はこれまで通り、政務三役と内局の文官が行うと述べている。

 今回の衆院予算委員会での場面を記者から質問された中谷防衛相は、「自衛官の国会答弁については、あくまで国会が判断すること」とした上で、かつて自らが答弁した考えを今後も踏襲していくとした。

政治家は軍事音痴と無知のままではいけない

 中谷防衛相の意見は“餅は餅屋”的で一見合理的ではある。しかし、私たち日本人はどこで戦争や軍事について学んでいるのか。小中高校では日中戦争や太平洋戦争を教材に、沖縄戦や原爆投下など過去の特定の場面が取り上げられるだけでしかない。

 それは政治家も同じで、政治家は防衛大臣や防衛副大臣にでも就かなければ、軍事や危機に対する感度は鈍く、無知が続いていくという裏返しでもある。事実、新型コロナウイルスの感染拡大時に、憲法を改正し、緊急事態条項を設けようという議論もあったが、危機が去った今、議論はすっかり立ち消えたことでも明らかだ。

 今の中谷防衛相をはじめ、前任の木原稔防衛相も、陸海空など4人の現職幕僚長の軍事的な補佐を受けながら、陸将や空将などで退官したOBを「政策参与」に任命し、自らのアドバイザーとして活用している。それはウクライナ戦争が象徴するように、21世紀の軍事作戦領域は、陸海空だけでなく宇宙やサイバー空間にまで広がり、武器など装備品の能力も進化し続けているからだ。自衛隊を指揮する政治家として、きちんと把握しておかなければならないことが山ほどある証しだろう。

 国会議員も同じだ。沖縄・尖閣諸島を巡って、中国との間には領有権問題という火種があり、台湾有事が現実味を帯びて論じられている今、国会議員は文民統制の要として、自衛隊への防衛出動発令を承認する立場に立たされるからだ。その時になって、何の判断も下せず「わかりません」では済まされない。


新着記事

»もっと見る