2025年12月5日(金)

Wedge REPORT

2025年7月23日

 国内では2000年にDDI、国際電信電話(KDD)、日本移動通信(IDO)が合併し、KDDIが誕生した。英ボーダフォンの携帯事業を買収したソフトバンクも参戦し、携帯電話番号ポータビリティ制度の導入などでNTTの独占状態は崩れた。携帯事業は「シェアは1位でも利益率は3位」という状態だ。

 NTT幹部は「ライバルは固定通信と携帯通信を一体的に展開しているのにNTTだけが分割状態に置かれたのは不公平だった」と指摘する。そうした思いがNTT再統合へと向かわせたことはいうまでもない。

 今回の経営改革でNTTはドコモやデータの株式をTOBにより全て買収し、100%子会社にした。島田社長は「これで親子上場の問題が解消し、迅速な経営判断ができるようになる」と完全子会社化の利点を語る。だがライバルからは「単なる先祖返り。分割・民営化の努力が水の泡になった」との声が上がる。

 実はドコモやデータは今でこそグループの稼ぎ頭だが、分社化当時はほぼ赤字に近い状態で、片道切符を渡された社員たちは「俺たちは放り出された」と落ち込んだという。それがベンチャー精神を育み、結果として大きな成功につながった。しかし今また完全子会社となったドコモには「自由闊達さを失った」「内向きの組織になった」という声も聞かれる。

大きな船に乗ることで
展開がしやすくなる

 データセンター事業や海外展開で多額の投資が要るNTTデータグループの佐々木裕社長は「大きな船に乗ることで展開がしやすくなる」と子会社化を評価する。しかし現場では「自由度を失わないか」といった指摘もある。データは半分以上が外国人社員で「NTTの文化と相容れないのでは」とも心配される。

 NTTはドコモのTOBに約4兆3000億円、データのTOBには約2兆4000億円もの費用を投じた。それでも完全子会社化に踏み切ったのは「通信自由化」や「公正競争」の名のもとに政治的圧力から分割・民営化を迫られたという思いがあるからだ。電電公社時代を知る古参社員がグループ内にいるうちに再統合しなければ、NTTは本当にバラバラな組織になってしまうという強い危機感があったといえよう。

グループ企業の新しいロゴを発表する島田NTT社長(筆者撮影)

 実はNTTが再統合する背景にはもう一つ理由がある。インターネットやクラウドの普及に伴う通信市場のグローバル化と、それに伴う「GAFA」のような米大手IT企業への対応だ。NTTは40年間、売上高こそ拡大してきたものの、年平均成長率は数%にとどまる。ところが米IT大手は何百倍にも事業規模を拡大、日本国内のクラウドサービスでも国内勢を凌駕しており、それに対抗する必要があるからだ。

 NTTによるドコモやデータの完全子会社化に対し、監督官庁である総務省が待ったをかけなかったのは「日本の情報通信産業を強化するにはNTTの再統合もやむなし」と判断したからに違いない。AI時代を迎え、世界のIT大手がデータセンターの拡張競争にしのぎを削っている今、NTTの海外展開を子会社のデータだけに任せず、グループを挙げて国際戦略に挑む必要があると判断したからだといえる。


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