今回は、出汁の研究をライフワークにしている私の一押しのお土産を紹介します。奥井海生堂の長期熟成蔵囲利尻昆布です。同社は、創業明治4(1871)年、敦賀にある高級昆布専門店です。敦賀は古くから北前船で運ばれて来た昆布を、琵琶湖を渡って京都に届けて来ました。
社長の奥井隆さんは言います。
「『いい昆布を使っているね』と言われると、昆布屋は失格。むしろ、そのうま味が昆布と分からないくらいのほうがいいんです」
私の「まちのプロデュース」も同じです。自分のプロデュースが良かったと言われても、嬉しくありません。裏方の矜持を持ってやっています。
そもそも、昆布は鰹節と並んで出汁をとるための主役なのにどうして存在感を消したほうが良いのでしょうか。その秘密が「蔵囲」です。
「昆布漁は7月から始まる真夏の限られた時期だけ行われ、仕入れは今でも現金が原則です。それを2〜3年、蔵で寝かせるのです。そうすることで磯と昆布の匂いを落とし、うま味を凝縮させるのです。かつては全国に昆布蔵がありましたが、今では日本で弊社だけになりました」
昆布蔵で熟成されることで、うま味が増す一方で、昆布の匂い、つまりその存在感は薄くなるのです。蔵の中には「36年もの」の昆布もあります。そして、収められた箱にはどれも「香深」と書かれています。
「それは、礼文島の浜の名前です。ここで漁れる利尻昆布が最上のものとされています。私が若い頃、問屋を介さずに直接取引をしてもらいに頼みに行ったことがあります。今でこそ入札になっていますが、当時は部外者には売ってもらえませんでした。ところが、弊社の昆布が永平寺御用達だということが分かると様子が変わりました。明治以降、北海道にも布教が広まって、曹洞宗の末寺が礼文島にもあったのです。そのおかげで取引をしてもらえるようになったのです」
