2025年12月5日(金)

トランプ2.0

2025年7月23日

「太い黒色マーカー」

 米有力紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は7月18日、ショッキングなトランプの手紙の存在を報じた。

 同紙によれば、エプスタインと共犯のギレーヌ・マクスウェル氏が、エプスタインの50歳の誕生日のために、家族や友達を含めた数十人から手紙を集めて革製のアルバムにまとめたが、その手紙の中に、トランプの「みだらな手紙」があったと言うのだ。

 それは、太い黒色マーカーを使って手で描いたような裸婦の輪郭の中に、タイプライターで打ったジェフリーとドナルドの会話体のものであった。結びには、「お誕生日おめでとう。毎日が新たな素晴らしい秘密でありますように」と書かれ、同じ太い黒色マーカーで、われわれが見慣れた署名がなされていた。

 トランプは、「私は絵を書かない」と述べ、ウォール・ストリート・ジャーナルの発行元であるダウ・ジョーンズやその親会社ニューズ・コープと、その名誉会長のルパート・マードック氏等に対して極めて高額な訴訟を起こした。 

 しかし、米有力紙ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストによれば、2000年初頭、トランプは定期的に絵を書き、ニューヨークの慈善事業に自分の絵を寄付していた。

 トランプ第1次政権において、少なくとも4点が競売にかけられた。その内訳は、トランプタワーが2点、エンパイア・ステート・ビルとジョージ・ワシントン・ブリッジ(ニュージャージー州バーゲン郡フォート・リーとニューヨーク市マンハッタン区ワシントン・ハイツを結ぶ橋)がそれぞれ1点であった。これらのトランプの作品には、太い黒色のマーカーが使われていた。

 筆者は、この「太い黒色マーカー」に注目した。というのは、周知のようにトランプは大統領令や大型減税・歳出法等に署名する際、必ず好んで太い黒色のマーカーを使用するからだ。

トランプ流ダメージコントロール

 トランプは、どのようにしてこの危機を乗り切ろうとしているのか。

 第1に、トランプは、エプスタインに関する捜査文書を、頭がおかしい左派が作成した「でっちあげ」「罠」および「でまかせ」と呼び、民主党の陰謀論にすり替え、MAGAたちとトランプ政権の対立を最小限に抑える戦略に出た。

 また、自身のSNSに、明確な根拠なしに、バラク・オバマ元大統領、ジョー・バイデン前大統領とジェームズ・コミー元FBI(連邦捜査局)長官によって、捜査文書は作成されたと投稿した。

 第2に、2016年米大統領選挙にロシアが介入したという「ロシア疑惑」や、ロシア当局がトランプに不利な情報を入手しているという調査報告書「スティール文書」もでっち上げであったとMAGAたちに思い起こさせ、エプスタインの捜査文書も同じであると、自身のSNS上で訴えた。

 第3に、トランプは自身のSNSに、司法省に対して、エプスタイン事件に関する大陪審での全ての証言を、裁判所の承認を得た上で、提出するように指示したと投稿した。その狙いは、「透明性」に訴えて、MAGAたちの怒りを鎮めることにあると言える。

 ただ、今のところ、これらの戦略は成功していない。MAGAたちは顧客リストの公開を求め続けており、トランプとMAGAたちとの関係にヒビが入っていくのか、事の推移を見ていく外はない。

 これらの戦略が機能せず、MAGAたちがトランプ政権に対して不満や怒りを持ち続けるならば、トランプは、米国民の目をエプスタインの顧客リストから逸らす戦略に出るだろう。仮に、大胆な外交政策を発表し、実行に移した場合、その狙いはエプスタインの顧客リストとリンクしているとみてよい。

「トランプマシン」

 トランプは、エプスタインの捜査文書の公開を求め続けるMAGAたちを「愚かな人々」と呼び、もう彼らの支持は必要ないとまで明言した。しかし、彼は捜査文書を公開してもよいと、急に言い出した。その背景には、トランプのために「ダーティー・ワーク」を厭わない「トランプマシン」の存在があるのではないだろうか。

 顧客リストが、すでに何らかの「処理」をされた可能性は排除できない。トランプのトラブルについて考えると、なぜか闇の方向へ引きずられていく恐ろしさを感じる。

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