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山本崇雄氏の歩みと横浜創英での挑戦
山本氏は東京都の両国高等学校・附属中学校や武蔵高等学校・附属中学校などで英語教諭として長年、生徒と向き合ってきました。特に、この公立学校教諭時代は、知識を一方的に教える従来型授業に疑問を持ち始め、「このままでは生徒の主体性や自分で考える力が育たないのでは?」という思いを強めていったと語っています。
山本氏は、生徒が「なぜ?」「どうして?」と自分で疑問を持ち、自分なりに考え、答えを探そうとする姿を引き出すために、意図的に「全部を教えない」「問いを投げかける」「一緒に考える」ようになりました。最初は戸惑いや不安もありましたが、いざ実践してみると、生徒たちはこれまで見せなかった活発さや創造性、自発性を見せるようになっていったのです。
その経験が今の教育観の原点となり、2019年以降は横浜創英中学・高等学校で「自律」「主体性」を大切にした学校改革を率いています。「教えない授業」は、先生が単に楽をすることではありません。子どもが自分で人生を切り拓くための大切な力――これを山本氏は一人ひとりの心にきざもうとしています。
「教えない授業」とは?――その理由と実践
「教えない授業」というと、何もしない授業を連想する人もいるかもしれません。しかし実際は全く逆です。山本氏は講演で、「教えることを減らすことが、子どもの学びへの意欲や主体性、自律を引き出すきっかけになる」と語ります。
先生が生徒にすべてを説明し、答えを与えてしまうと、生徒は「言われたことをやる」だけになってしまいがちです。しかし、「これってどう思う?」「なぜそうなるのだろう?」「あなたならどうする?」と問いかけてみると、生徒たちは考え、話し合い、自分で調べ始めます。そうして「学ぶ主役」へと変わっていくのです。
例えば、英語の授業では、「この表現はどんなときに使える?」と聞くだけで生徒同士の意見交換や自由な発想が生まれます。あるいは理科の授業で「本当にこの方法が一番良いと思う?」と投げかけると、何通りもの解決策が生徒の口から次々と飛び出しました。
こうした授業では、先生は「導き手」であり「伴走者」になります。課題を設定し、問いを投げ、困っている生徒にはヒントや支援をしつつ、基本的には「自分で学びぬく」力を信じて見守ります。子ども自身が調べて考え、時には失敗し、人と協力しながら答えに近づいていく。これが「教えない授業」の本当の姿です。
横浜創英と工藤勇一氏の教育改革
山本氏の実践は、横浜創英前校長の工藤勇一氏による学校改革とも深く結びついています。工藤氏は以前、麹町中学校などで「ブラック校則」見直しや宿題・定期テスト廃止といった、大胆な改革で注目された教育者です。
工藤氏が一貫して訴えてきたのは、「自分で選んで行動し、責任をもつ人を育てよう」という考え方です。山本氏も「自己決定と自律」を軸に持ち続けてきました。だからこそ、横浜創英の教育改革でも、「ルールや校則も生徒が話し合い決める」「授業も生徒が中心」「失敗からもう一度挑戦する力をつける」など、多くの場面で「教えない」「主体性」「自律」が大切にされています。
山本氏は、学校生活のさまざまな場面――進路相談、生徒会活動、クラブ活動、探究学習――で、「先生がやる」のではなく「生徒自らが決めて動く」形式を積極的に導入しています。こうした環境こそがこれからの時代、本当に必要な力を育てる場になると確信しているからです。
現に、横浜創英の生徒たちの中には、自分の意見をどんどん出し合い、仲間と協働し、未知へのチャレンジを楽しいと感じる子が増えているといいます。一見、時間も手間もかかる方法のようですが、「自分の人生は自分でつくる」という意識が自然と育つのです。
「自律」「主体性」はどう育てる?――現場からの証言
「教えない授業」で大切なのは、「子どもが自分で選び、行動し、失敗から学び直す」ことを本気で信じているかどうかです。山本氏の今回の講演や著書には、たくさんの現場エピソードが出てきます。
例えば、以前山本氏が指導した生徒で、探究課題の途中で迷い、なかなか結果が出せなかった子がいました。そんなときも先生は「ヒントは出しても、答えは教えない」姿勢を貫きました。そして、生徒自身が友だちやネット、本などを使いながら何度もチャレンジして結果を出したときの自信や成長ぶりは、受け身で教わっていた頃とは比べものにならなかったと言います。
また、授業や学校生活全体で「主体性」をはぐくむ仕掛けがたくさん用意されています。グループディスカッションやプロジェクト学習、学校行事の企画運営、校則の見直し…さまざまな「自分で考え選ぶ」経験を積むことで、生徒は「自分ならできる!」という自己効力感を得ていきます。
もちろん最初はうまくいかないこともあります。人前で発表できない生徒もいたり、議論がまとまらないこともよくあります。それでも、「失敗は成長のチャンス」として肯定的に受けとめる文化のなかで、生徒も先生もお互いを支え合いながら取り組んでいます。山本氏自身、「教員としても最初は不安でした。でも、子どもたちの成長を信じて任せてみると、本当に大きな変化が起こる」と語っています。
『「教えない」から学びが育つ』――書籍と講演のメッセージ
山本氏の考えや実践の集大成が、最近出版された『「教えない」から学びが育つ』(ウェッジ刊)です。この本は、単なる技法紹介ではなく、「なぜ教えないことが子どもの自律を育てるのか」「保護者や先生、大人は子どもとどう向き合うべきか」など、学校現場から見えてきた本質を語っています。
本書や講演で山本氏が繰り返し発信するのは、「子どもを信じ、手放す勇気の大切さ」です。大人がどうしても手を出したくなる場面でも、子どもを信じて見守ることで、子ども自身が考え続け、責任感や自己肯定感を身につけることができます。そのプロセスこそが「自律」へとつながり、どんな時代にも強くしなやかに生きる力になるのだ、と山本氏は力説しています。
また、工藤氏をはじめ、原晋氏(青山学院大学陸上競技部監督)、植松努氏(植松電機代表取締役)、木村泰子氏(大阪市立大空小学校初代校長)、苫野一徳氏(熊本大学大学院准教授)、岡佑夏氏(教育コンサルタント)、神野元基氏(Qubena開発者)との対談も収録されており、現場で生まれた具体的なエピソードや教育現場の課題なども紹介されています。
「教えない」「アクティブラーニング」「自分でやってみる」「間違いを恐れない」…これらは一見、学校だけの話のようですが、実は家庭や社会、そして大人にも通じる大切なメッセージです。
子ども一人ひとりに主役としての自覚と責任を持たせ、大人は信じて見守る。そのなかで生まれる“自律“や“主体性“は、これからの社会を元気にする、かけがえのない力となります。山本氏の「教えない授業」は、今、日本の教育が大きく変わろうとする中で、多くのヒントを与えてくれるとともに、教育のミライを明るく照らす原動力だといえるのではないでしょうか。
【出演者】
山本崇雄(やまもと・たかお)
横浜創英中学・高等学校副校長・日本パブリックリレーションズ学会理事長ほか。都立中高一貫教育校を経て、2019年より複数の学校及び団体・企業でも活動する二刀流(複業)教師。「教えない授業」と呼ばれる自律型学習者を育てる授業を実践。子どもから社会人まで自分で考えて行動する自律型人材育成をテーマにした講演会、出前授業、執筆活動を精力的に行っている。検定教科書『NEW CROWN ENGLISH SERIES』『My Way』(三省堂)の編集委員を務めるほか、著書に『「学びのミライ地図」の描き方』(学陽書房)、『なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか』(日経BP社)、『「教えない」から学びが育つ』(ウェッジ)等多数。
【山本氏最新刊】
『「教えない」から学びが育つ』(ウェッジ)
教育関係者、そして教育問題を意識するビジネス界の人々との対談を通じて描く、あるべき子どもの未来、教育の未来の姿とは――。
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【関連動画】
【なぜ「教えない授業」で飛躍するのか?】横浜創英”二刀流教師”山本崇雄が「子どもが選ぶ力」を最重視する理由
https://youtu.be/v9-knWCfClM
【「ブラック校則」の核心】理不尽すぎる“謎ルール”が「子どもの自学力」を奪う残念な現実
https://youtu.be/Aw4hnGwdPRY
【リンク】
♦「ウェッジブックス」HP
https://wedge.ismedia.jp/list/books
♦「ウェッジブックス」X(旧Twitter)
https://x.com/wedge_books
